〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.33 2013年3月号
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■ 勇気をくれ、背中を押してくれるこの一冊


林 明子作『こんとあき』(福音館書店)

内海 友里恵

 赤ちゃんのお守りをするために「さきゅうまち」からやってきたきつねのぬいぐるみ、それがこんです。生まれた赤ちゃんの名前は「あき」。「こんとあきは、いつも いっしょに あそんで、あきは だんだん おおきくなりま」す。あきが成長していくにつれて、「こんは、だんだん ふるくな」るのです。ある日、ほころびた腕をおばあちゃんに直してもらうため、二人は「さきゅうまち」へと電車で出かけます。
 途中の駅でお弁当を買いに行ったこんを心配するあき。こんはしっぽをドアに挟まれながらも、お弁当を持って立っていました。そしていつものことばを言うのです。「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」おばあちゃんの家に行く前に、砂丘へ寄り道。突然出てきた犬にこんはさらわれてしまいます。あきは、砂の中にいるこんを掘り出し、「こんをおぶって、すなのやまを おり」、おばあちゃんの家までたどり着きます。こんの手も足も腕も、おばあちゃんがすっかり直してくれました。「つぶれたしっぽには、おふろが いちばん!」そう言って三人でお風呂に入ります。お風呂から上がったこんは「できたてのように きれいな きつねに なり」、次の次の日、あきとうちへ帰るのでした。
 これは、私が小さい頃に読んだ、今でも忘れられない大好きな本です。初めての遠出、電車の窓から見る景色、何もかもが真新しくて胸がドキドキする思いが、あきの表情から伝わってくるからです。始めはこんに付いていくことしか出来なかったあきが、こんをおんぶして、おばあちゃんに直してもらう――「わたしがしっかりしなきゃ」との強い思いが旅の中で育っていくのです。こんが繰り返す「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」は、私に勇気をくれる、背中を押してくれるような気がするのです。

(英語コミュニケーションコース4年)


■ 新刊紹介


小手鞠るい作・たかすかずみ絵『お手紙ありがとう』(WAVE出版)


 「ボールがあたったところは、いたくないですか。」「わたしのスケッチにつきあってくれて、ほんとうにありがとう。」「めそめそ泣いていたわたしに、あなたはやさしく、力強く、声をかけてくれました。」このそれぞれが誰に宛てて書かれたものかがわからない、「あなた」とは誰かがわからない形になっています。わかってくるのはその後の「旅人」からの手紙によってです。「『ただいま』そう言って、ぼくが、きみを見あげると、『おかえり』そう言って、きみは、ぼくを見おろします。」「あなた」も「きみ」も木、すべてが木に宛てた手紙なのです。「ただだまって、そこに立っているだけしかできない」もの言わぬ木、もの言わぬものへの手紙、当然のことながら返事はありません。それでいて返事はある、木に伝えた思いが「応え」となって戻ってくるからです。「つかれたら、またここにもどってきて、きみをだきしめてもいいですか。」ここに立つのは命の木、巡る季節の真ん中に立ちつづける一本の樫の木なのです。
 旅人のこの手紙が真ん中、「まつもとこうじ」と「ほしのえりか」、「川崎真木子」の最初の手紙と二通目の手紙の真ん中に置かれています。四人のその真ん中に木はあるのです。その木がスポーツセンターを造るのに「じゃまだから」を理由に、切り倒されてしまうことになります。「ぼくの心から、葉っぱがぜんぶちって、心がはだかになってしまったような気がします。」これは、まつもとこうじ、「あなたがいなくなったら、わたしは、だれの絵をかけばいいのでしょう。」これは、ほしのえりか、「こんなかなしいことがあって、いいのでしょうか。」これは、川崎真木子です。
 川崎真木子が小学生のときの校長先生に手紙を書きます。「お手紙ありがとう」に始まる校長先生からの返信、それが木からの手紙に思えてきます。空襲によってすべてが焼き尽くされた中、「あの木だけが、・・・たおれることなく、しっかりと、立っていたのです。」焼け野原に、子どもたちがその木のどんぐりを植える、一人が校長先生のお父さんだったのです。「希望の木」を残すため、多くの人に手紙で呼びかけることを勧めます。「手紙はどんどんふえるでしょう。まるで枝に葉がしげるように。葉と葉のあいだから、つぼみが出て、花がさくように。」木の周りには決まって人のつながりがつくり出される、知らない者同士が木への手紙によってつながっていくのです。

(藤田 博)
発行:宮城教育大学附属図書館


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