〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.31 2012年11月号
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■ 本を読むことの奥深さを教えてくれるこの一冊


岸田純一作・梅田俊作絵『大草原のとしょかんバス』(岩崎書店)

熊谷 亜紗

 「きょうは ポカポカいい天気。」「ぼく」が草原を歩いていると、大きなバスが横に止まりました。「おい、ぼうず」と声をかけてきたおじさんは、「こんな日は 学校さぼりたいのは わかるがな。でも、学校は ちゃんと行かなきゃダメだぞ。よし、おっちゃんが おくっていってやる」と、「ぼく」をむりやりバスへと引っぱり込みました。バスの中は本ばかり、不思議に思った「ぼく」はおじさんに尋ねます。「としょかんバスを 知らんのか」「このバスはな、としょかんに こられない人に 本をとどけてまわるんだ。そうだ。きょう一日 しごとをてつだえ。これも りっぱな べんきょうだ」そうして「ぼく」は、おじさんの「としょかんバス」での仕事を一日だけ手伝うことになりました。
 「おっちゃん、人に本かして よませて、それで どうするわけ?」「あのな、ぼうず。『注意一秒、本一生』っていうだろう。本のなかにはな、人の生きかたを かえてしまうほどの ふしぎな力を もっているもんもあるんだ」「と、いいたいところだが、そんな本はめったにない。だいいち 本よんだくらいで コロコロ生きかたが かわったら、いそがしくて たまったもんじゃないべさ」「ぼく」は、いい加減ではあるけれど面白いおじさんと一緒に、牧場や保育園、小学校、民家、収穫祭など、さまざまな場所を訪れます。おじさんの仕事の手伝いを通して、「ぼく」は人々が「としょかんバス」を楽しみに待っていることに気づいていきます。
 私はこの本に出会って初めて、「移動図書館」の存在を知りました。「移動図書館」とは、図書館を利用しにくい地域の人々のために、書籍などの資料と職員を乗せた自動車や船などで各地を巡回して、図書館のサービスを提供する仕組みのことです。「移動図書館」の存在から、本や図書館が人々にどれだけ必要とされているのか、どれだけ親しまれているのかが分かります。おじさんの言うように、本には人を惹きつけ、人の考え方をも変えてしまう「ふしぎな力」があると思われます。だからこそ、人々は「としょかんバス」を待ち、まだ知らない本との出会いを望むのではないでしょうか。この『大草原のとしょかんバス』の最後には、読者を驚かせる終わりが待っています。本を読むことの面白さや奥深さを感じさせてくれる一冊です。

(健康・運動障害教育コース4年)


■ 新刊紹介


エリザベス・ローズ文/ジェラルド・ローズ絵/

    ふしみみさを訳『川のぼうけん』(岩波書店)


 「たかい山の てっぺんで、あめが ふっています。」その雨粒が集まって小さな流れとなり、川となり、川は水量を増し、幅を増し、とうとうと流れ、海へと注ぐ、希望に溢れた冒険の物語です。「ぼく、おおきな川に なりたいんだ。」「うみを みにいくんだよ。」からもそれがわかります。まちがいなく冒険の物語でありながら、翳りのようなものが感じられるとすれば、それはどこからくるものなのでしょうか。
 「やがて いわのうえを ちょろちょろ はしる、ちいさな ながれになりました。」弧を描いて、上空をタカが飛んでいます。「タカさん、いっしょに うみに いこうよ」と誘うものの、飛び去ってしまいます。「ながれは やがて 小川になりました。小川は だんだん おおきくなっていくのが、うれしくてたまりません。」マスに声をかけます。「ねえ いっしょに うみを みにいこうよ。」マスがついてくることはありません。「小川は 石のうえを すべり、いわに ぶつかりながら、げんきよく くだっていきます。」岸辺の鳥たちに歌いかけます。鳥たちからの返事はありません。のんびりひなたぼっこをした川は、自分が弱っているのに気づきます。「ゆっくりと いわのあいだに しみこんでいきました。」
 「川は みるみる いきおいをまして ふくれあがりました。」嵐がやってきたのです。水辺に棲むネズミが、必死に枝にしがみつき、ふるえ上がっています。動物たちは、ごうごうと音を立てて流れる川をおびえながら見つめています。「とうとう おおきな川に なったよ」、誇らしげにそうつぶやく川の声に、否定の意味合いが感じ取れるとしたら、それはどうしてなのでしょうか。
 町へとやってきました。「あおく すんでいた水は にごり、とおりすぎる ふねから もれた あぶらが、かわもに にじいろの しみを つくっていきます。」「ついに うみに ついたんだ!」大きな川はうれしそうに歌いながら、海へと流れ込んでいきます。「ああ、うみは なんて おおきいのでしょう!」
 「そのころ 山のてっぺんでは、ふたたび あめが ふりはじめていました・・・」その雨粒がまた小さな流れとなり、川となり、海をめざします。その冒険の旅に希望はあるのでしょうか。

(藤田 博)
発行:宮城教育大学附属図書館


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