■ 動物生理学が絵本になると…
黒川 修行
10年くらい研究ばかりの生活でしたが、保健の授業を作るための講義・演習を担当するようになりました。学生が普段思っている体に関するいくつかの疑問を基に、授業をどのように展開すればいいのか、等の話をしています。
今年度の授業では「生きている」ことを感じさせるために、「脈拍を聞く」にはどうすればいいのか、話題を提供しました。前時に感想用紙を配り「「心臓」「脈拍」「血管」「循環」などに関する疑問をできるだけ列挙する」ことにしてみました。すると、様々な疑問が出てくるのですが、その中で多かったのが「脈拍が早いと早死にするって本当ですか?」という疑問でした。
「え?そんなにこの話って浸透しているのか!?」と驚いてしまいました。この話、ちょうど20年前の1992年に初版が出た、本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』からきている話だろうと、すぐに分かりました。有名な本なので、読まれている方も多いのではないかと思います。時間というものが相対的なものであるということは、難しいことを考えなくても、私達は日々感じていることです(十数年間に青葉山にいた時と比較して、最近、本当に1日があっという間に過ぎ去っているのを実感しています。あの頃はどうしてあれほど1日が長く感じたのだろう。)
それはさておき、動物のサイズが違うと機敏さが違い、寿命が違います。結果的に時間の流れる速さも違ってきます。しかし、一生の間に心臓が打つ回数は、サイズに依らずほぼ同じであることが知られています(本書の帯書きより一部引用)。本書はまさにこの動物生理学的視点からの生物学入門書と言えるかと思います。私も学生時代に演習で紹介されたのを機に購入して読みました。もう随分前の事で、内容も曖昧でした。そこで、今回の授業作りのために再度読もうと思ったのですが、本棚に見当たらず。改めて購入しましたが、なんと63版!びっくりしました。あ!図書館にあったかも?と、後から思い出しました。
念のため、OPACで確認。検索されたのは、『絵ときゾウの時間とネズミの時間』(1994年初版)。あの本が絵本に!?、と驚きながらも、貸し出しされていないことを確認して、早速借用しました。ガリヴァー旅行記の「ガリヴァー」を主役にして、「サイズ」を意識させます。そして、具体的な数字を使いながら、「?」がついた発問で、「あれ?」という揺さぶりがかけられます。最初の3ページで、あっという間に引き込まれます。具体的な数字やグラフが多数出てきます。そして、読み切った時には満足感でいっぱい。科学的知見が満載の絵本になっています。生物「学」の入門書とも言える『ゾウの時間 ネズミの時間』も絵本になるとこのような形になるのか、と驚きました。医学的分野や生物学的な知見を子どもたちに伝えることが多くなる、保健の授業を作る上での参考書にもなりそうです。
そういえば、「脈拍が早いと早死にするって本当ですか?」の答えは?是非『絵ときゾウの時間とネズミの時間』と『ゾウの時間 ネズミの時間』を読んで考えてみて下さい。
※「絵ときゾウの時間とネズミの時間」/本川達雄文/あべ弘士絵/福音館書店
(保健体育講座)