〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.29 2012年7月号
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■ 転校生がやって来た!
一條 亜紀子
本屋さんでひときわ目立つ絵本でした。かわいらしい表紙と不思議なタイトルに興味を引かれました。読んでみると、人間関係を築く上で大切なことを教えてくれる深い内容でした。4月に新しい学級がスタートし、「学級の一員である自分」を考えるきっかけになればと思い、生徒たちに紹介しました。
「たかこが ぼくの がっこうに やってきた。」
「ぼく」のクラスに来た転校生の女の子「たかこ」は、ちょっと変わっていました。十二単に扇、床につきそうなほど長い黒髪という姿なのです。鉛筆の代わりに墨と筆を使い、リコーダーの代わりに琵琶を鳴らします。「ぼく」と「たかこ」は隣同士の席になりました。「よろしく」という「ぼく」に、たかこは「こころやすくならむ」と返します。平安時代からタイムスリップしてきたような女の子です。
「たかこ」がどんな女の子かが書かれた物語の前半を読み聞かせしたところで、生徒に聞きました。「こんな女の子が転校してきたらどうかな?」
・・・「あり得ない。」という現実的な反応や、「おもしろそうな人だから、いろいろ聞いてみる。」という積極的な意見がある中で、「変わっているし、よく分からないからそっとしておく。自分からは話しかけない。」という意見が目立ちました。
そして物語の後半を読みました。
勉強のよくできる「たかこ」。テストはいつも満点です。ところがある日、他の子に負けてしまいました。くやしくて一日中不機嫌な「たかこ」に、クラスの子が言いました。「たかこちゃんて、いっつも えばってる。」それを機に「たかこ」は、話し方をまねされたり、長い着物を踏んづけられたり…クラスの中で居場所を失ってしまうのです。
「たかこ」はこれからどうしたらいいのでしょうか?
学級遠足の日、皆が野原で思い思いに遊んでいると、急にあたりが暗くなり、雲行きがあやしくなってきました。突然の雷に大粒の雹。「かさ さしちゃダメ! かみなりに うたれちゃう!」「おおきい ひょうが あたったら あぶないよ!」「たすけてーっ!」
そのとき,「たかこ」が自分の着物を広げて「わが うはぎを つかひたまえ!」皆は、色とりどりの着物の下に隠れました。
天気が回復し、皆は「たかこ」に感謝します。「たかこちゃん、ありがとう!」ぬれて重くなった着物を皆で学校に持ち帰り、広げて干しました。「きれいだね。」
なぜ「たかこ」はクラスの中で居場所を失ったのでしょうか。なぜそれを取り戻すことができたのでしょうか。
生徒たちに問いました。
・・・「最初は自分のことしか考えていなかった。」「皆の役に立つきっかけをつかんだ。」「皆のために勇気を出した。」「自分の良さ・個性を皆のために生かすことができた。」「周りを気遣うことができた。」生徒たちの考えに共通していたのは、「クラスのために、皆のために」でした。
中学生のこの時期、生徒たちは「自分」について深く考え始めます。自己理解や自己表現の力が身に付いていくと同時に、周囲の目が気になり、葛藤が生まれます。「たかこ」のように、自分の個性をありのままに出すことには抵抗があるのです。しかし、どんな個性かが問題なのではなく、大事なのは、どのように個性を出していくのかです。自分本位に振る舞っていた「たかこ」は孤立しましたが、クラスのために尽くした「たかこ」は認められました。周囲との関わりの中でこそ、自分を表現する方法を学ぶことができ、自分の立場や役割への意識が育まれるのです。
最後に、生徒たちに「自分にとってのクラスとは?クラスにとっての自分とは?」と問いました。
・・・「自分が成長する場所。お互いに高め合うメンバー。」「安心できる場所。自分はそういう場所をつくる一員。」「クラスは仲間。自分は仲間を支える存在になりたい。」
「たかこ」が経験した失敗や葛藤、克服を通して、生徒たちに学級の方向性が見えてきたようです。
※「たかこ」/清水真裕作/青山友美絵/童心社
(附属中学校教諭)
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