〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.29 2012年7月号
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■ トリックスター登場

藤田  博 

 「わたくしを もっと おおきくしてください」、うさぎが神さまにそうお願いをします。「とらと、わにと、さるとを、じぶんのてでころして、そのかわをもってきたら」、神さまが出した条件です。
 「とらさん。・・・いまに すごい おおかぜが ふいてきて、わたしたちは みんな ふきとばされてしまう という はなしです」、そう言って、うさぎは自分の体を木に縛り始めます。「先に」が重要です。そうしての先回りは、とらが「まず、おれを しっかりと しばりつけてくれないか」と言い出すのを見越してのこと。そうして、棒で殴り殺してしまうのです。
 「いい おてんきですね。」うさぎはさるに、「わざと なれなれしく よびかけま」す。「わざと」は演技、まさしくトリックスターとしてのうさぎのもの。「たいこを じょうずに うつものが いなくて、よわっているところです。・・・あなたなら きっと すてきに うまく たいこが うてると おもいます。」お世辞を言われ、うれしくなったさるは、うさぎと一緒に行くことにします。途中、眠ってしまったさるを棒で。こうしてうさぎは、とらとわににつづき、さるをやっつけるのです。
 やっつけてくるのがわかっていた、それが神です。だからこそ先回りをし、大きな体をうさぎに与えなかった神こそは、一番のトリックスターと言えるのかもしれません。「たった ひとところだけでも おおきくしてやろう」、神さまはそう言って、うさぎの耳をつかみ、遥か彼方へと投げるのです。北川民次・文・絵『うさぎのみみはなぜながい』(福音館書店)が語るメキシコの起源説話です。
 あまんきみこ・文・二俣英五郎・絵『きつねのおきゃくさま』(サンリード)では、きつねの前に「おきゃくさま」がやってきます。「ふとらせてから たべよう」、そう考えるのはきつねの余裕のなせる技。先へと送ったことが、思わぬ結果をもたらします。「やあ きつねおにいちゃん」、ひよこから掛けられたこの一声、つづいて生まれて初めて「やさしい」と言われたきつねは、「すこし ぼうっと なっ」てしまうのです。結果として、ひよこは、トリックスターとしてのきつね以上のトリックスターであったことになります。ひよこはあひるに言います、「きつねおにいちゃんちよ。あたしと いっしょに いきましょ。」あひるはひよこに、「きつね?とおんでもない。がぶりとやられるよ。」ひよことあひるがうさぎに言います、「きつねおにいちゃんちよ。あたしたちと いっしょに いきましょ。」うさぎは、「きつねだって?とおんでもない。がぶりと やられるぜ。」「きつねおにいちゃんは、かみさまみたいなんだよ」、きつねが陰で聞いているのを知っている、知っていてあひるがそう言ったとしたら、それこそしたたかなトリックスターということになります。
 おおかみがやって来ます。おおかみを前にしたきつねの体に「ゆうきが りんりんと わいた」のは、太らせたひよことあひる、うさぎをおおかみに横取りされたくないからではありません。「そのばん。きつねは、はずかしそうに わらって しんだ」のです。「ふとらせてから」との魂胆を持ちながら(これが「はずかしそうに」)、それでもひよことあひる、うさぎを守って死んだ(これが「わらって」)ことに対する笑みなのです。
 李錦玉・作・朴民宜・絵『さんねん峠』(岩崎書店)は、「さんねん峠」の言い伝えを語ります。「さんねん峠で ころぶでない さんねん峠で ころんだならば 三ねんきりしか いきられぬ。」あれほど気をつけて歩いていたにもかかわらず、おじいさんは転んでしまいます。家に帰ったおじいさんは気落ちし、寝込んでしまうのです。そこへやって来た「すいしゃや」のトルトリが、「さんねん峠で もういちど、ころぶんだよ」と、とんでもないことを言い出します。「一どころぶと、三ねんいきるんだろ。二どころべば 六ねん、三どころべば 九ねん。四どころべば 十二ねん」、まさしく逆転の発想です。
 「えいやら えいやら えいやらや」、ぬるでの木の陰からおもしろい歌が聞こえてきます。うれしくなったおじいさんは、「ころりん ころりん、すってん ころり」と転ぶのです。先回りをして隠れ、歌っていたのがトルトリだったのは言うまでもありません。そのトルトリが水車屋であることに、円環としての水車と円環としての「運命の輪」とが重ね合わされているのです。

※「うさぎのみみはなぜながい」/北川民次・文・絵//福音館書店
※「きつねのおきゃくさま」/あまんきみこ・文/二俣英五郎・絵/サンリード
※「さんねん峠」/李錦玉・作/朴民宜・絵/岩崎書店 

(英語教育講座)


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