〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.28 2012年5月号
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■ 春が来た喜びを教えてくれるこの一冊

ジーン・ジオン・文/マーガレット・ブロイ・グレアム・絵/こみやゆう・訳 『はるがきた』(主婦の友社)

田 伸枝

 「カレンダーを みても はるは すぐそこ。でも、・・・はるは まだ、どこにも みあたりません。」例年に比べ寒さの厳しかった今年は、春がなかなかやって来ませんでした。この絵本のようにです。「春はまだかな」と、南風が吹き、花が咲き、緑が広がる春を待っていた人は多かったはず。私もその一人です。『はるがきた』に出会ったのは、そうした時でした。
 春を待つだけの大人たちに、男の子が話しかけます。「ねえ! どうして はるを まってなきゃ いけないの? まってなんか いないでさ、 ぼくたちで まちを はるに しようよ!」男の子の提案に大人たちは大賛成。市長を先頭に、町を春にするプランが市民総出で実行に移されます。手に手にペンキとはけ、はしごを持って、町中に絵を描き始めるのです。家の塀にビルの壁、店の日よけに街灯、銀行の柱にガスタンク、あらゆるものに春を描きます。草や木の緑、花や太陽の黄、川や鳥の青――灰色だった街に鮮やかな色が広がります。男の子のひらめきから、街が春の色に包まれていくのです。
 その夜、激しい雨が。みんなで描いた絵が消えてしまいました。「春」がなくなってしまいました。ところが、それは春を連れてやってきた雨だったのです。一夜にしてたんぽぽが咲き、わかばが芽生え、動物たちが顔を出す、「まちに まった、 ほんものの はるが やってきたのです!」
 春の訪れを待ち遠しく思っていた時、この絵本は私の心に「春」をつくり出してくれました。ここには、青と黄と緑の絵の具だけで見事な春が描き出されています。細かいところに遊び心が溢れています。絵が文に、文が絵に寄り添うように描かれています。夫婦だからこそのコンビネーションが生み出した傑作です。これを読むと、自ら何か行動しようという気持ちがわき上がってきます。男の子のように、自分の考えを提案してみたい。そうすることで世界が動くような気がしてくるのです。
 

(英語コミュニケーションコース4年)


■ 新刊紹介

小林 豊『とうさんと ぼくと 風のたび』(ポプラ社)


 「春がきた。・・・あたたかな風に さそわれて、とうさんと ぼくは たびにでた。風の ふいてくるところへ むかって。」「たびにでた」の「たび」は、当たり前の旅ではなく、「とうさん」の子どものころにタイムスリップしたものに思えます。「とうさんとぼく」とが旅をする意味もそこにあることになります。その旅では、「いつもとおなじ けしきが きょうは ちがって みえる」のです。「おなじ」と「ちがって」がゆらぎを見せる、日常性と非日常性のはざまに落ち込んだ奇妙な感覚がそこから生まれます。
 春が来たのを知らせるため「野山を おこして まわってる」「山のひと」の後をたどります。その人の唱える「みづち のっち くくのっち さくら しゃぐち さか しゃくる」が、「風のくに」はどこにあるかを教えてくれているようです。「風の ふいてくるところへ むかって」は、時間をさかのぼることを意味します。時間だけではない、空間も越えていくのです。いつの間にか国境も越えたのかもしれません。韓国風の帽子をかぶった人が見えるからです。「風は むかしから おなじ道を かよってくるんだ」、変わることと変わらないこと、その隙間を風は吹き抜けていくのです。
 「風が さかを おりてくる。」坂は境、坂を上ると峠です。「とうげで、風が しずかに うごきを とめた。ずうっと とおくに 地平が みえる。」峠も境、「風のくに」が見えるかもしれません。「わたしぶねの おじいさんが、むかしのうたを うたっている。ちりや ちりちり しゃんなら しゃんなら」「おじいさん」が昔の人とすれば、「むかしのうた」はそのまた昔。そのまた昔の「おじいさん」も同じ歌を歌っているに違いありません。そこはいくつもの時代がまじり合い、重なり合った場、いつの時代かわからない、いつの時代であってもかまわない場です。「しらない においが 風と まじりあっている」そこは、変わることのない風が作り出す場なのです。
 「さあ、いよいよ ここからが 風のくにの いりぐちだ」、ここまで来て「いよいよ」と聞かされ、ではこれまではと驚かされます。はるかに遠い、遠いその先から風は吹いてくるということなのです。「ぼく」はこう言います、「風は もっとむこうから ふいてくるよ。」

(藤田 博)


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