■ 読み聞かせを超える絵本二冊
西城 潔
なかむらみつる『やさしいあくま』(幻冬舎)
これまでわが家の子どもたちと一緒に読んだ中で、もっとも印象に残っているのが本書です。この物語には、病気のおばあちゃんと2人きりで暮らす男の子「フウ」と、「チュッチュ」という悪魔が登場します。2人はある日、大きな木の下で知り合います。病気のおばあちゃんのことでみんなから仲間外れにされていたフウと、一人ぼっちのチュッチュは仲良しになり、毎日いろんなことをして遊びました。日に日に二人の絆は深まり、しだいにお互いがかけがえのない存在になっていきます。
ある日のこと、町へお医者さんを呼びに行ったフウが家に戻ってくると、チュッチュが、おばあちゃんの体から何かを取り出して飲み込んでいるではありませんか。やがてチュッチュは唸り声をあげ、大きな化け物に変身します。「おまえのばあさんのいのちはおいしかったよ」「おまえをあんしんさせて、おまえらをたべるすきをいまかいまかとまっていたんだよ」友達と信じきっていたチュッチュの恐ろしい言葉に、フウは涙ながらに棒きれをもって立ち向かいます。フウが棒きれで打つと、チュッチュは叫び声をあげて逃げ去ってしまいました。すると、それまで意地悪だった町の人たちは、悪魔を退治したフウをほめたたえてくれるのでした。
さて、一体こんなチュッチュのどこが「やさしい」というのでしょうか?そう、思ってもみないチュッチュのやさしさが明かされるのは、実はここからなのです。子どもたちとその部分を読み進むうち、哀しくも感動的な展開に、私は声が震え出し、涙がどうにも止まらなくなって、膝上に抱いていた娘の服に鼻水をポタポタと垂らしてしまいました。「やさしさとは?」について考えさせられた一冊です。
小風さち・文/山口マオ・絵『わにわにのおふろ』(福音館書店)
一匹のわにがおふろに入り、中でいろんな遊びを楽しみ、あがるまでの一連の様子を描いた絵本です。設定は荒唐無稽ながら、版を重ねていることからもわかる通り、子どもの心をつかむ魅力に満ちています。また娘にせがまれて毎日のように読んでやっているうち、私自身もすっかり本書が好きになりました。その不思議な魅力は、さまざまな擬音語やリズム感にありそうです。蛇口を「きゅるり きゅるり きゅるり」とひねると、お湯が「じゃば じゃば じゃば」と出てきます。わにがおふろにもぐり込む時の「じょろろーん!」という音は、重量感ある体が湯船の縁から滑り落ちる様子をよく表わしています。お湯に浮かべたおもちゃの発する「ぽくん ぽくん ぷくん」という響きには、なんだか癒されます。床に敷いたタオルで体を拭く時の「ぐにっ ぐにっ ぐなっ ぐなっ」という音からは、ヨロイのように堅くて、しかも弾力に富むわにの皮膚(触ったことはありませんが)の質感が伝わってくる気がします。お湯にもぐって「じーっと」体を温める場面も印象的。本書に出会ってから、子どもとのおふろの楽しみが増しました。幼児向けの本ですが、くり返し、できれば音読してみると、いつのまにか本書の魅力にとりつかれてしまうことでしょう。
※「やさしいあくま」/なかむらみつる/幻冬舎
※「わにわにのおふろ」/小風さち文・山口マオ絵/福音館書店
(社会科教育講座)