〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.28 2012年5月号
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■ これからも語り継がれる

安田 暁人


 水よう日のあさは、いつもよみきかせの先生がきてくれます。わたしは、よみきかせがすきです。本に口があるようによんでくれるところがすきです。いつも本をよんでもらっているとき、おもしろすぎてみんなから、「おぉ」と、こえが出てしまいます。それをきくと、こころが一つになっているなとおもいます。よんでくれている先生のこえがきこえなくなるから、ほんとうはやめたほうがいいけど、みんなのたのしいきもちがわかるから、わたしは「おぉ」というこえがすきです。

 これは、昨年度、私が担任していた学級の子どもの作文を抜粋したものです。子どもたちは読み聞かせが大好きで、水曜日の朝が来るのを心待ちにしていました。作文からも、夢中になって聞き入り、心まで一つになっている様子が伝わってきます。
 大好きな読み聞かせの中で、『はなさかじい』を取り上げていただいたことがあります。誰もが知っている昔話です。予想通り、「知ってる」「読んだことある」「絵本を持ってるよ」と、自信たっぷりに読書歴を披露し始めたのですが・・・。聞き始めると、様子が変わりました。
 「犬を拾ってくるとき、こんなことがあったの?知らなかった・・・。」
 「あれ?犬の名前が出てこないよ。名前は“しろ”じゃなかったかな?」
 「ぼくが知っている“はなさかじいさん”では、犬は“ぽち”だよ?」
 「犬に乗って山に行くの?ぽちは子犬だったのに。」
 「わたしの知っている“はなさかじいさん”と似ているけどちがう!」

 国語の学習に、「むかしばなしをたのしもう」という教材があります。昔話特有の話の展開のおもしろさや独特の言い回し、語り口調に気付くこと、古くから親しまれてきた昔話の魅力を味わうことをねらいとした学習です。大好きな読み聞かせは、子どもたちをあっという間に、その学習の入り口に立たせてくれました。休み時間には、競うようにして図書室に向かい、『はなさかじい』を探し求めました。そして、5冊の『はなさかじい』を見付け出し、読み比べを始めました。
 「この『はなさかじい』は、犬の名前が“しろ”だ。」
 「こっちはやっぱり“ぽち”だよ。でも、大きい犬みたいだ。」
 「こっちの『はなさかじい』のお話は、最後に意地悪なおじいさんが牢屋に入れられている。」
 「意地悪なおじいさんが、お殿様にいっぱい叩かれて終わる『はなさかじい』もあるよ。」
 「同じ『はなさかじい』なのに、なんで違うんだろう?」
 「分かった!書いた人が知っている『はなさかじい』なんだ。」
 「みんな『はなさかじい』は知っているけど、みんな違うんだね。いろいろな人がお話を作っていいんだよ、きっと。」

 子どもたちは、古くから親しまれ、語り継がれてきた昔話の特徴に気付き始め、 「どうして、人気があるのだろう。昔から語り継がれ、いろんな人が本にして書き残しているのは、なぜだろうね。」 と、学習の核心に近づくことができました。

 「知っている」と昔話を侮ることなかれ。 そこには声に出して読む、音にして聞く楽しさがあります。善行がよい結果につながる力強い例示であったり、勇気や親切を奨励していたりする理解しやすい物語です。細部の違いに加えて、作者により異なった表現を見ることもできます。長く子どもたちに愛され続けてきた架空の物語は、これからも少しずつ細部を変えながら愛され続けていくのだと感じます。今度は、子どもたちを語り手として。

 この学習が一段落したある日、子どもが本を抱えて図書室から帰ってきました。
 「先生!『いっすんぼうし』は7冊もあったよ!」
昔話は、これからも語り継がれていく、そう強く感じました。


 ※「はなさかじい」/よしざわかずお文・さくらいまこと絵/ポプラ社

(附属小学校教諭)


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