〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.26 2012年1月号
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■ エリック・カールの絵本と歌遊び

橋  誠

 30年近く前のこと、私が学部の1年生のとき、渋谷孝先生と橋浦兵一先生お二人による小専国語の授業だったと思います。渋谷先生は、大きな220教室の前列に座っていた私に、読み聞かせをするように絵本を手渡しました。きつねの子が手袋を買いに町へ行く、新美南吉の『手ぶくろを買いに』でした。読み終わると渋谷先生は、「たいへん上手ですね。どうしてですか」と私に尋ねました。そこで私は次のように答えました。
「私は祖父母を中心とする大家族で暮らしています。従兄弟がたくさんいます。忙しい叔父・叔母に代わって、小学生の従兄弟の宿題を見てやったり、遊び相手になったりするのが私の役目になっているのです。絵本を読んでやるのも、毎日のことなので慣れています。」
すると橋浦先生は、「あなたは生まれながらの教師ですね」とおっしゃいました。小学校教師を目指していた私にとって、最高の賛辞をいただいたと思います。それから私にとって、絵本の読み聞かせは重要な位置を占めるようになっていきました。
現場に入ってからも、教室に自分の好きな絵本や児童書を置いて、読み聞かせをするようにしました。初任の小学校では、戦時中に動物園の猛獣を毒殺する話、土家由岐雄『かわいそうなぞう』(金の星社)を読み聞かせると、涙を流して泣くほど感性豊かな子供たちと過ごしました。初任校は国語の研究指定校で、「書く活動」を取り入れた読み取り指導を実践していたことから、耳で聞いて書き取る聴写という学習に使ったのですが、子供たちは泣きながら書き取っていました。
二校目の小学校で本はさらに増えていきました。朝早く登校して読みたい本を読む子供もいました。20年以上も前から「朝読書」は、私の教室では自然発生的に実践されていたと思います。その学校で特別支援学級の担任となり、絵本が教科書(一般図書)になる環境に身を置くことになりました。
三校目は病院併設の特別支援学校での勤務でした。病状が重くて病室から出られない、知的障害を併せ持つ重度の子供たちを担当しました。ベッドの脇に座って、エリック・カール『はらぺこあおむし』(偕成社)の読み聞かせをしました。さなぎからちょうちょに羽化する最後の場面で、子供たちが笑顔になるのが印象的な絵本です。色づかいも独特ですばらしいと思います。
同じ『はらぺこあおむし』の読み聞かせでも、同僚たちはそれぞれに工夫を凝らしていました。「あおむし」のお面を作って頭に被ってみたり、ちょうちょに羽化する場面をレースのカーテンを使って子供を喜ばせようとしたりしてです。私も何かできないかと思案していたところ、100円ショップで果物のレプリカを見つけました。「げつようび、りんごを ひとつ みつけて、たべました。まだ おなかは ぺっこぺこ。かようび、なしを ふたつ たべました。やっぱり おなかは ぺっこぺこ。」「すももを みっつ」「いちごを よっつ」「オレンジを いつつ」本物そっくりのよくできたレプリカです。買い揃えて病室でベッドの上に並べていくと、手を伸ばして触ろうとしたり、小さないちごを口に入れようとしたり、子供たちの反応は上々でした。
しばらくして、『エリック・カールCD絵本うた』(コンセル)というCDに出会いました。『はらぺこあおむし』の話がそのまま歌詞になり、軽快な曲に乗って歌われていました。絵本の読み聞かせと歌遊びをリンクさせながら、楽しむことができました。
その後に、エリック・カール『ポップアップ はらぺこあおむし』(偕成社)が出版されました。ページをめくると、原作の中の興味を引くものが次々と飛び出してくる絵本です。これも子供たちは喜んでくれました。うれしくて手で引っ張ってしまう子供がいたのでボロボロになってしまい、2冊目を買って使っています。
ある年、英語の音の響きをとても好む子供を担当しました。そこで、Eric Carle, The Very Hungry Caterpillar (Philomel Books)を取り寄せて英語で読み聞かせしたところ、声を上げて喜んでくれました。
他にも『できるかな?――あたまからつまさきまで』、『月ようびなにたべる?』(いずれも偕成社)は、先のCDに音楽が収録されているので、体を動かしながら絵本を楽しむことができる優れた作品です。
今年度、附属特別支援学校に転勤してきて中学部の担当となりました。子供たちは私の絵本の読み聞かせと歌遊びを心待ちにしてくれています。ちょっとした時間に絵本を読んでもらえることを楽しみにしている、すてきな子供たちに出会えたことに感謝しています。

※「はらぺこあおむし」/エリック・カール作/もりひさし訳/偕成社
※「ポップアップ はらぺこあおむし」/エリック・カール/もりひさし訳/偕成社
                           

(附属特別支援学校教諭)



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