〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.26 2012年1月号
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■ スケートをする

藤田  博 

 アリスン・アトリー作・マーガレット・テンペスト絵・神宮輝夫訳『グレー・ラビットとヘアとスキレル スケートにいく』(童話館出版)は、「なにもかも、こおっていました。」に始まります。「からだをおおっている針が、ぜんぶ霜でこおって、・・・いつもと、まるでちがってみえ」るはりねずみのヘッジホッグから、「トム・ティドラーの農場ちかくで、スケートしている」と聞いただけで心が高ぶります。スケートが楽しいだけではない、特別な時間が流れる特別な日となること故の高揚感なのです。「このあたりのみんなが、くる」のもそのため、「おまつりにいくのですか?」とかわねずみのウォーターが聞いて当然なのです。まさしくそれは「お祭り」なのですから。
 「子うぎたちと横一列に手をつないで、いっしょに、すべりはじめ」たスケートは、「赤い夕日がとおくの山のうしろにかくれ」るまでつづきます。「こんなことをしたのは、だれ?」グレー・ラビットが、「つかれて、おなかをすかせて、でも、うきうきした気分でかえってきたとき」のためにと用意して出かけたハーブパイが、アップルタルトが、なくなっています。スキレルのベッドで寝ている「犯人」が誰かは、長く伸びた尻尾から明らかです。「むすび目をつくるのがとくい」のスキレルが、ラットの尻尾をほどけないよう結んだ後に、大きな音を立てて追い出します。もぐらのモールディ、かわねずみのウォーターがバスケットを持ってやってきます。「きょう、この家に、るすのあいだにかってに客がはいりこんでいたって、はなしをきいてね。」ラットが入り込んで悪さをした、だからこそ盛り上がるパーティー、浮き浮きした気分がより一層浮き浮きしたものとなるのです。
 キャサリン・ホラバード文・ヘレン・クレイグ絵・おかだよしえ訳『アンジェリーナはスケーター』(講談社)の始まりは、 「ゆきが ふって、ミラーいけに こおりが はりました。」「おおみそかの ばんに スケートで げきを する つもり」のアンジェリーナ、 スパイクとサミーがその邪魔をします。「じゃまを するのは、なかまにはいりたいからじゃない?」母から教えられた通り、二人は喜んで「ゆきのおうさま」、 「ピエロ」の役を務めることになります。凍ったミラー池の同じ舞台に立つのです。大晦日の夜、村中のねずみがおめかしをしてやって来ます。 「つきの ひかりを あびた いけのうえは、べっせかいのよう」です。劇が終わると、「どこからとも なく、としこしの うたが きこえて きました。」凍った川や池をすべるスケートは、過去へと向かい、未来へと向かう二つの時間を意識させます。大晦日の夜はその意味で必然のものと言えます。旧い年と新しい年の双方を見る双面神ヤーヌス、その支配下にあるのが大晦日だからです。
M.M.ドッジ作・石井桃子訳『銀のスケート』(岩波少年文庫)には、並行して流れる二つのプロットがあります。一つは、アムステルダム、ハールレムをたどり、ライデンを目指すピーター以下6人の男の子の物語。宿で泥棒をつかまえる冒険物語とも、美術館や博物館を訪ねることで、オランダの歴史を巡る歴史案内にもなっています。もう一つは、ハンスとグレーテル、兄と妹の物語。古い木製のスケートのため、早くすべることができません。そこに仕事という、スケートのできないもう一つの理由が加わります。「ガチョウ番」とあだ名され、からかわれるほどに貧しいのです。
ハンスの父ブリンカーは事故に遭い、10年もの間眠りつづけています。父がどこかに埋めたお金も眠りつづけています。手術を施し、目覚めさせてくれたのは、「オランダじゅうで一ばん気むずかしい人」と評判のブックマン先生。その先生を探しにライデンへ向かうのが6人の男の子、それによって二つのプロットはつながるのです。目覚めさせたことが、家を出て長い時間が経つブックマン先生の子息の消息を得ることへとつながります。ブリンカーが持っていた謎の時計も目覚めるからです。刻まれたL・J・BのLはラオレンス、Bはブックマンであることがわかるのです。グレーテルが見事に獲得したスケート大会の賞品「銀のスケート」をつくったのは、ラオレンスその人だったのです。
スケートは冬だからこそのもの、それ故に聖ニコラス祭とつながります。ブリンカーが目覚めたことも、ラオレンスの居所がわかったことも、聖ニコラスがスケートを通してくれた最高の贈り物に違いないのです。
 
※「グレー・ラビットとヘアとスキレル スケートにいく」/アリスン・アトリー作/マーガレット・テンペスト絵/神宮輝夫訳/童話館出版
※「アンジェリーナはスケーター」/キャサリン・ホラバード文/ヘレン・クレイグ絵/おかだよしえ訳/講談社
※「銀のスケート」/M.M.ドッジ作/石井桃子訳/岩波少年文庫 

(英語教育講座)


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