■ 授業で利用すると有効な1冊
浦邉 盛勝
この絵本を使って考えられる授業例を、具体的に示していきたいと思います。
中学1年生の地理では、世界の姿を国の名前や面積、形などからとらえさせます。子どもたちはランキングが好きなので、地図帳などの資料を使いながら、面積の上位10位を考えさせると授業が盛り上がります。その流れで世界の人口について取り上げます。今の世界の人口は70億、そのうち中国が13億、インドが12億などアジア州に多いことを紹介するのですが、数字が大きすぎて子どもたちにはイメージがわきません。そこで、この絵本のように世界の人口を100人として考えさせ、100人のうち「61人がアジア人です 13人がアフリカ人 13人が南北
アメリカ人 12人がヨーロッパ人 あとは南太平洋地域の人です」と話をすると、子どもたちは世界の人口がいかにアジア州に集中しているかをイメージすることができます。その一端をなしているのが人口1億2000万人の日本で、100人中2人が日本人ということも付け加えると、日本人が意外に少ないのも想像させることができます。また、100人のうち「17人は中国語をしゃべり 9人は英語を 8人はヒンドゥー語とウルドゥー語を 6人はスペイン語を 6人はロシア語を 4人はアラビア語をしゃべります これでようやく、村人の半分です あとの半分は ベンガル語、ポルトガル語 インドネシア語、日本語 ドイツ語、フランス語などをしゃべ」ることから、これから世界で羽ばたく人間になるには、日本語だけではなく外国語を話せなければならないことや、日本語以外で話ができると世界中にたくさんの友達を作ることができるのを伝えて、外国語を学習する意欲をかき立て、世界に興味を持ってもらうように話をすることも可能です。他に、世界の3大宗教についても取り上げることになりますが、100人のうち「33人がキリスト教 19人がイスラム教 13人がヒンドゥー教 6人が仏教を信じています 5人は、木や石など、すべての自然に霊魂があると信じています 24人は、ほかのさまざまな宗教を 信じているか あるいはなにも信じてい」ないことから、キリスト教信者が多いこと、仏教徒が意外に少ないのを知ることになります。宗教にはそれぞれ決まりがあり、イスラム教では豚肉、ヒンドゥー教では牛肉を食べることができないなどの文化の違いにも触れ、多文化尊重の素地を作ることにつながる展開もできると思います。
中学3年生の公民では、「国際社会と国際平和」の学習をします。日本に住んでいると平和に暮らしていることが当たり前のように感じますが、世界には平和でない国がたくさんあります。100人のうち空爆やテロの襲撃、地雷による殺戮などにおびえている人は20人もおり、自国から逃れている難民も1〜2人いるのを紹介することで、自分たちがいかに恵まれた環境で生活しているのかを知るでしょう。争いが絶えないそういった国々では、その紛争が原因で貧困問題が深刻であることを取り上げる際にも、100人のうち字が読めない人が14人いること、「20人は栄養がじゅうぶんではなく 1人は死にそうなほどで」あることを話し、世界には勉強したくても貧しいために働くのを余儀なくされている子どもたちが多くいること(兵士となって銃を撃つ子どもたちもいる)も併せて紹介すれば、毎日、ノートや鉛筆を持って学校で授業を受けているのがとても恵まれていることが分かるでしょう。また、今回の東日本大震災では自然の恐ろしさや命の尊さ、人々の優しさを改めて知っただけでなく、電気や水道、ガスのない生活を送って不便な生活を体験した子どもたちも多くいたことと思います。そういう経験をした子どもたちに対し、世界には100人のうち、きれいで安全な水を飲めない人が17人もいることを紹介すれば、便利な世の中に慣れないように、これから意識して生活をしていこうとする子どもたちが増えてくるかもしれません。さらに、震災で原子力発電所の放射能漏れの多大なる影響を受けたエネルギー分野に関しても、世界のエネルギー問題を取り上げる際に、「すべてのエネルギーのうち 20人が80%を使い 80人が20%を分けあってい」る事実を話すと、エネルギーは世界の国々の人たちすべてが享受しているのではなく、一部の人たちが多く使用していることが分かります。その一部の人たちの中に我々日本人も含まれていることを紹介すれば、節電などを積極的に行おうとする子どもたちも増えてくるのではないかと思います。
※「世界がもし100人の村だったら」池田香代子再話/C.ダグラス・ラミス対訳/マガジンハウス
(附属中学校教諭)