〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.25 2011年11月号
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■ きつねの悲しみ

藤田  博 

 きつねを描くと、決ってそこにもの悲しさが漂うのは何故でしょうか。母ぎつねと子ぎつねが描かれることによって、もの悲しさはなお一層増していきます。きつねはずるいもの、人を化かすものとの固定観念があります。ずるいとされるそのきつねが、新美南吉の「ごんぎつね」を典型として、ずるさを超えたものを見せる、自己犠牲の精神さえも発揮する、そこに悲しみが生まれるのです。
「どうしたの、おなかがすいたの? それともどこか いたいの?」と聞く母ぎつねに、「ううん、たださむいだけだよ」と言っていた子ぎつねが死んでしまいます。山のふもとに、日暮れになると、ぽっと明かりの灯る古い電話ボックスがあります。その小さな明かりが、「ほんのすこし きつねのむねをあたため」てくれます。母さんに電話をかけにやって来た男の子、その「おとこのこのうしろで、しっぽがゆらんと ゆれたようなきがした」のです。男の子と母ぎつね、向こう側の世界とこちら側の世界、電話ボックスだからこそ二つは交差し、重なり合うのです。その電話ボックスから明かりが消えます。電話が使えないのです。そうと知れば、男の子はがっかりするに決っています。「ああ、わたしが、でんわボックスのかわりに なれたらいいのに。」「まほうは使えない」と子ぎつねに言っていた母ぎつねが「まほう」を願い、「でんわボックス」に変身します。二つ並んだ電話ボックスの一方、「きつねのでんわボックス」で男の子が電話をします。「かあさん、あのね・・・」、応えるのは母ぎつねです。「きがつくと、きつねはゆめからさめたように、ぼんやりとすわっていました。」そう言っていながら、「さめたように」ではない、実際に夢であった手の内が明かされているのです。それによって、子どもを亡くした母ぎつねの切なさが、より強く伝わることになるのです。戸田和代作・たかすかずみ絵『きつねのでんわボックス』(金の星社)の世界です。
 「かあさん、さむいよう、おなかが すいたよう。なにか たべたいよう」、森はな作・梶山俊夫絵『こんこんさまにさしあげそうろう』(PHP研究所)の始まりは、そう訴える子ぎつねです。「そうだ。むらへ おりて、どこかで にわとりを いただいてこよう」、「いけへ いって おさかなを さがしてみよう」そのいずれもがだめ、困り果てたきつねの耳に太鼓の音が聞こえてきます。「あっ、あれは のせぎょう(野施行)の たいこ。こんやは のせぎょうだったのか。ありがたいこと」母ぎつねは、「むねを ふるわせて、おいなりさまに 手を あわせ」、「こんこんさまにさしあげそうろう」のお供え物をいただきます。お稲荷さまとして祀られるきつねがお稲荷さまに手を合わせる、それによって伝わってくるのは、お供え物へと託された感謝の思いなのです。「さあ、いただきなさい。たべていいんだよ。」「おなか いっぱいに なったよ・・・かあさんも おあがりよ」、子ぎつねがこう言うところからすれば、食べ物は残っているに違いありません。それでも、母ぎつねがそれを食べるとは思えません。子ぎつねの明日のために残すはずだからです。
 新美南吉作・黒井健絵『手ぶくろを買いに』(偕成社)も母ぎつねと子ぎつねの物語です。「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする。」そう言う子ぎつねに手ぶくろを買ってやりたい母ぎつねは、子ぎつねを連れて町へと向かいます。町が近くなると、母さんぎつねの足はすくんでしまいます。家鴨を盗もうとして見つかり、「さんざ追いまくられて、命からがら逃げた」ことが思い出されるからです。母ぎつねは子ぎつねの手の一方を「人間の手」に変えます。ひどい目にあわされたあの人間の手には変えたくない、そうに決っています。それでも手ぶくろをさせてやりたい母の気持ちが勝るのです。二つの白銅貨を「人間の手」の方へ握らせます。ここでの白銅貨は木の葉であってはならない、そうでなければ母の思いがうそになるからです。帽子屋の光がまぶしく、子ぎつねが出したのは、「決して、こっちのお手々を出しちゃ駄目よ。」ときつく言われていた方の手でした。手ぶくろをした子ぎつねが、「恐ろしいものだ」と聞いていた人間の家をのぞいて見ると、子供の声がします、「こんな寒い夜は、森の子狐は寒い寒いって啼いてるでしょうね。」楽屋落ち的なこの一言によって、「ほんとうに人間はいいものかしら。」と繰り返す母ぎつねのつぶやきの持つ意味合いが増幅されるのです。

 
※「きつねのでんわボックス」戸田和代作/たかすかずみ絵/金の星社
※「こんこんさまにさしあげそうろう」森はな作/梶山俊夫絵/PHP研究所
※「手ぶくろを買いに」新美南吉作/黒井健絵/偕成社

(英語教育講座)


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