■ 読み聞かせと語り聞かせ
今野 敬子
あめりかうまれの
ありのありすさんが
あるあきの
あかるいあめのあさ
あたらしい
あかいあまがさをさし
ありあわせの
あおいあまぐつをはき
あつぼったい
あめいろのあまがっぱをきて
あるところを
あるいていたら
あいにく
あしもとに
あながあいていた。
「あっ、あぶない!」と
あわてて
あともどりしようとしたが
もうまにあわぬ。
(松岡享子「あめりかうまれの」『しゃべる詩 あそぶ詩 きこえる詩』より)
「あ」から始まる言葉を集めたリズミカルな詩の世界に、子どもたちが入り込み、表情が輝きを増していくのが手に取るように伝わってきます。
あるお話会での一場面です。毎回必ず、絵本の読み聞かせの間に、ちょっとした手遊びや詩の朗読が行われています。その中の1分足らずの時間に、子どもたちは詩を聞きながら言葉を楽しみ、想像を膨らませているのが伝わり、私は「読み聞かせ」にすっかり魅せられてしまいました。
先日、担任をしている2年生の子どもたちに、この詩を読んでやりました。「あ」のつく言葉の多さに驚く子、げらげら笑い転げている子、「あ」のつく言葉のおかしな世界に想像を膨らませている子など、楽しそうな姿を見ることができ、読み手の私自身も満足していました。
後日、Nちゃんが「先生、これあげる。」と一枚の紙を渡してくれました。開いてみると、『「お」のダジャレ歌』と書いてありました。
おかしのくにの おおさまたちが
おかしなおかしを おつくりになった
おあじみをされて おこったそうだ
おばかといったら おばかとかえす
おおきなけんかが おこったそうだ(後略)
たった一度の詩の朗読を聞いて、言葉を楽しみ、言葉で遊ぶ子どもたちの豊かな感性に、改めて驚かされました。
読み聞かせ以上に、2年生の子どもたちが喜んでいるのは、「語り聞かせ」です。語り手は、何も持たず、その名の通り、覚えたお話を語って聞かせるのです。読み聞かせより深い味わいがあります。子どもたちと目を合わせながら話せるのも語り聞かせの魅力です。
今、語り聞かせをするために繰り返し読んでいる本があります。『おはなしのろうそく』シリーズです。
この本は、短いお話がたくさん集められていて、ほとんど挿し絵がなく、小説のようです。子ども向けのお話ですが,読み聞かせ・語り聞かせ用に編集されています。
2年生の一番人気は、「あくびがでるほどおもしろい話」です。「ここから北へ北へとすすんでいったある南の国に、たいへんかしこい、ばかな男がすんでいた。ある朝、夜が明けてあたりが暗くなったので、男は目をさました。外はすばらしくよいお天気で、雨がザアザア降っていた。」(『おはなしのろうそく5』より)こんな書き出しで始まります。あべこべな表現が、言葉を覚えている段階の2年生には痛快で楽しいらしく、何度も何度も聞かせてほしいとせがまれます。
数日して、クラスのT君が手作りの本を渡してくれました。表紙に書かれていたのは「かなしくなるほどおもしろい話」。語り聞かせを聞いて気に入って、自分で作り、お母さんが本に装丁してくれたそうです。それを読んで、感想を伝えると、満面の笑みを浮かべて去っていきました。その日の休み時間、T君はたくさんの友達に囲まれていました。「ぼくのお話会をするよ!聞きたい人はよっといで!」
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しゃべる詩 あそぶ詩 きこえる詩/はせみつこ編/飯野和好絵/冨山房
※おはなしのろうそく(5)/東京子ども図書館編
(附属小学校教諭)