■ 「ふしぎな鳥の巣」に魅せられて
浅野 治志
鈴木まもる文・絵『ふしぎな鳥の巣』(偕成社)は、題名の通り、不思議な形をした鳥の巣を紹介する科学絵本です。なぜ鳥がこのような工夫をして、見事な巣を作ることが出来るのか、この本を読むと興味が湧くはずです。私たちは鳥の巣はどの鳥も同じようなものと思い込みがちです。鳥はいつも自分の巣に帰るものとも思っていないでしょうか。本当は大切な卵やヒナを安全に育てるために巣を作り、子育てが終われば離れていくのです。
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オーストラリアに住むツカツクリは、土や木、枯れ葉などで直径10メートル、高さ2メートルもの山のような巣を作ります。この鳥はこの中に卵を産み落とすだけで、温めることはしません。巣の素材が作り出す発酵熱で自然に中が暖かくなり、卵を育てるのです。巣の中がいつも33度になるように、鳥が温度調節をするのです。
南アメリカに住むキゴシツリスドリは、凶暴な蜂の巣の側に巣を作ります。蜂はこの鳥には何もしませんが、他の動物が木に登ってくると襲いかかります。自然の神秘、不思議さには驚くばかりです。
ところで、鈴木まもる氏は、実は私の芸術大学時代の後輩にあたります。大学生の頃から少し変わったキャラクターで、学校近くの公園で肩にカラスを乗せ、親子のように口移しで餌を与えていました。傷ついていたカラスを助けたところ、なついてしまったとのことでした。
彼は学生の頃から、鳥に関してはただならぬ興味を持っていたようです。在学中に絵本作家として独立しました。以前、テレビで、日本の絵本作家が集めた様々な鳥の巣をニューヨークのギャラリーで展示するとの紹介がありました。もしや、と思ったら、やはり彼でした。子育てを終えて空き家となった様々な巣を、こつこつと蒐集していたようです。それらの巣は一つ一つが、鳥が造り出した美しい工芸品のようにも見えました。
鳥は誰れから教わったということなく、それぞれの暮らしに合った巣を作ります。色々な素材のもの、大小様々なもの、複雑な構造のもの、奇妙奇天烈なもの。それにしても鳥の巣の造形美には驚かされます。鳥は自然界の建築家、あるいは偉大なアーティストと呼ぶべきなのかも知れません。
私が最も驚いたのは、まだ誰も見つけていない鳥の巣が多数あるということです。これほど科学が発達した21世紀の世の中で、どのような巣を作り、どのような卵を産み、どのようにヒナを育てているのか未だわかっていないものがあるのです。実に不思議なことです。
鳥の巣の不思議を知ることは、生命の尊さを知ることなのかも知れません。この絵本は鳥の巣への興味を通して、命の大切さを教えてくれているような気がします。
※「ふしぎな鳥の巣」/鈴木まもる文・絵/偕成社
(美術教育講座)