■ 「だいじなたからもの」のありかを教えてくれるこの一冊
カール・ノラック文 / クロード・K・デュボワ絵 / 河村万里子訳『わたしはだいじなたからもの』(ほるぷ出版)
遠藤 しおり
期待に胸が躍る新学期、ロラは歌を歌いながら帰ります。歌うと、幸せが体中に広がるのです。できたばかりの友達のルルが、ロラに尋ねます。「ねぇ ロラは、おうちでは なんてよばれてるの?」「ちびちゃん とか、かわいいようせいさん とか、だいじなたからもの とか」、ロラは元気よく答えます。それを聞くと、ルルも他の子たちも「えー!」と言って笑い出したのです。
「だれだって、そととはちがう うちでのよびながあるとおもうけど……。」そう考えたロラは、調べてみることにしました。「すみません、おまわりさんはこどものころ、おうちで なんてよばれてましたか?」「うちのひよこちゃん さ。」パン屋さんにも尋ねます。「まんまるロールパンだったかな。」ロラは何だかほっとして、歌い出します。しかし、バス停に着くと、先ほどの友達が、「あははは、ようせいさん だってさ!やーい、ちびちゃん!」と冷やかしました。ロラはしょんぼりと、一人、歩いて帰るのです。歌も歌わず、口笛も吹かずに。
「おかえり、ちびちゃん」玄関を開けたパパがそう言っても、ロラはふくれっ面。パパとママは心配そうに尋ねます。「いったいどうしたの、うちのだいじなたからもの?」「それよ、それは わたしのこと!」ロラは、パパとママの腕の中に飛び込みました。
翌朝、学校に向かうとき、ルルがロラのところへやってきます。「きのうはごめんね。ほんとはうらやましかったの。うちではだれも、あんなにかわいいよびかたはしてくれないから。」ルルはロラに、「ちびちゃん とか、ようせいさん とか、だいじなたからもの とか」と呼んでもらうようにしたことを教えます。「それはだめ!そのよびかたは わたしの、わたしだけの!」そう言ったロラは気がつくのです、「どこのこもいえでは だいじなたからもの」であることを。「ねぇ ルル、うたをうたうと、とってもたのしくなるって しってる?」二人は一緒に歌を歌います。幸せな気持ちが、体いっぱいに広がります。
天真爛漫で前向きのロラ、そのロラを大切に思う人たちが支えています。誰にも大切に思ってくれている人がいます。思う人にとって、ひとりひとりが「うちのだいじなたからもの」なのです。日々の暮らしに追われ、忘れてしまいがちですが、ときには立ち止まって、支えてくれる両親や友人、大切な人に感謝の気持ちを伝えてみたくなります。幸せな気持ちが胸いっぱいに広がり、思わず歌いたくなるのです。
(教育学コース4年)