〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.22 2011年5月号
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■ 「ならぬものはなりませぬ」からの脱却

齋藤 貴裕

 「りんごがひとつ おちていた。みんな おなかを すかせているよ」と始まる『りんごがひとつ』に出会ったのは、10年程前。読み聞かせするのに良い本はと探していたときに見つけたものです。かわいらしいイラストと分かりやすい内容、そして楽しい展開が魅力です。
この絵本に出会って、自分の考え方が変わったところが二つあります。
一つ目は「ならぬものはなりませぬ」から「何か理由があるのかも」へ。
二つ目は「小細工でも、その場をしのぐことが大事」から「その場しのぎや小細工では根本は解決しない。後で大変なことになることもある」へです。
一つ目について。サル君がりんごを拾って逃げます。みんなのりんごです。他の動物たちはカンカンになって怒ります。しかし、りんごを取ったサル君には、そうしなければならなかった理由があったのです。サル君には子どもがいたのです。それを知って他の動物たちは納得するのです。
小学校で普通学級を担任していたかつての自分は、「ならぬものはなりませぬ」主義でした。授業中は席に座っていなければなりません、忘れ物をしてはなりません、給食を残してはなりません、などなど。今考えると「なぜ、『なりません』なのか」の理由もきちんと説明できないままに、怒らなくていいことまで怒っていたような気がします。サル君のような行動をとってしまう児童に対しても、「こらー、みんなのりんごに手をだすなんて、けしからん。」と怒っていたことだろうと思います。
この本に出会って、サル君のような事情を抱えた人に自分のように怒るのはどうだろうと考えを改めました。以来、「カチン」「イラッ」とくることがあると、「きっと、何か理由があるに違いない。何だろう」と考えるように気を付けています。
この本に出会って2年後、初めて特別支援学級を担任することになりました。2年生の男の子2人の学級です。不安だらけです。4月当初、A君は着席どころか、教室に戻ってさえきません。別棟の廊下にあるソファがお気に入りの彼は、授業の時間になってもそこから離れようとしないのです。A君にはドアの開け閉めを繰り返したり、指しゃぶりをしたりのこだわりがありました。「やめなさい」「教室に入りなさい」と何度注意しても繰り返すA君に、いちいち腹を立てていました。
「A君の行動に腹を立ててもしょうがない」と気付くのはそれからひと月後、5月の運動会の練習が始まる頃でした。練習に参加するためにはクリアしなければならないものがありました。時間内に着替えたり,校庭に移動したりすることです。他の児童が当たり前にやっていることができずに困っているA君に、『りんごがひとつ』のサル君が重なって見えました。今にして、「A君の行動の理由は何だろう」と考えることができたことは、教師として大きな収穫だったと思います。
二つ目について。逃げるサル君が崖から飛び降りる場面があります。サル君は「崖から飛び降りる」という命がけの行動を見せれば、他の動物たちも追うことを諦めてくれると思ったのでしょう。しかし、実際は崖から飛び降りたふりだけをして、崖のすぐ下のくぼみにちゃっかり収まっていたのです。みんなが「しかたがない…」と帰っていったと思い、再び崖の上に登ると、みんなは「帰ったふり」をしただけ。鉢合せしたサル君は、これまで以上に窮地に立たされることになります。下手な小細工は逆効果であることをその場面から感じます。
ある状況を小細工で乗り切ろうとして、状況がより悪くなってしまった苦い経験が自分にもいくつかあります。今は、「まずいな」「苦しいな」と気付いたら、なるべく早く相談して、正攻法で対応するようにしています。
学校で読み聞かせするのにはもちろん、大人にもお薦めの一冊です。気持ちが「ほっ」とあたたかくなると思います。

※「りんごがひとつ」ふくだすぐる作・絵/岩崎書店                            

(附属特別支援学校教諭)



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