〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.21 2011年3月号
バックナンバーはこちら
[ 123 | 4 ]

■ 「しあわせのまほう」をかける言葉の力を教えてくれるこの一冊

カール・ノラック文/クロード・K・デュボワ絵/河野万里子訳
『だいすきっていいたくて』(ほるぷ出版)

畑山 亜里沙

 朝、ロラが目を覚ますと、口いっぱいにすてきな言葉が広がっていました。「うれしいな。ほっぺがどんどんふくらんでくる。」ロラはすてきな言葉をパパに言おうとしました。でも、パパは仕事に行ってしまいます。
 「ママ、あのね。」でも、ママはパタパタ大忙し。「またあとでね。」ロラはすてきな言葉をあげる人をさがします。スクールバスはうるさくて言えません。先生はおちびさんが独り占めしていて言えません。隣の席の男の子はすてきではないので、すてきな言葉は似合いません。お昼になるとロラはおしゃべりもせず、しずかにごはんを食べます。「いっしょにすてきなことばを のみこんじゃったら たいへん」そのあともロラは、すてきな言葉を誰かに言いたくてたまりません。お昼休みは、みんな遊びに夢中で言えません。帰り道、ロラはにっこり。フランキーになら、すてきな言葉を、一番すてきにプレゼントできそう・・・。ところがフランキーは、すてきな言葉を言う間もなく、びゅん!と行ってしまいました。帰りのスクールバスは、やっぱりうるさくて言えません。すてきな言葉を言いたくても言えないロラは、怒ってふくれてしまいました。家に帰ると誰もいません。ロラはますますふくれっ面。すてきな言葉など、もう全然言う気になれません・・・。ふくれっ面のロラにはごはんはちっともおいしくない、レモネードだって変な味がします。ママとパパが気付きます。「どうしたの、ロラ?ママとパパにいってごらん!」でもロラは怒ったまま。(いわないもん。もうぜったい いわないもん。わたしのすてきなことば。)ところが、ロラのほっぺはどんどん、どんどん、ふくらんで・・・・大きな声が飛び出します。
「ママ、パパ、だいすきよ!だいすきよ!だいすきよ!」
ロラはすてきな言葉が言えました。ママとパパはロラを抱きしめ、頭をなで、キスをし・・・。ロラのすてきな言葉が、みんなに幸せの魔法をかけたのです。
 ことばには、自分を変え、まわりの人を変え、幸せにする力が潜んでいる――。これは、そんなことに改めて気付かせてくれる、ほのぼのと胸の温かくなる絵本です。自分のさりげない一言が、誰かにとっての「しあわせのまほう」になるかもしれません。ありふれた日常の中にたくさんの「すてきなことば」を見つけて、大切な人、周りの人に「しあわせのまほう」をかける、そんな素直で温かい心をいつまでも持ち続けたいと思います。
 

(英語コミュニケーションコース4年)


■ 新刊紹介

いせひでこ『まつり』(講談社)

 「大きな木よ。じっと記憶する木よ。おまえが見てきたものに、わたしは耳をすます。」いせひでこ『大きな木のような人』(講談社)で、そう木に語りかけたパリの植物学者、「きみの大きな木」から、さえらに手紙が届きます。「木の先生」が、秋10月に日本に来るのを知らせる手紙です。
 やって来た「木の先生」は大きなカシの木に手を触れます。「おじいちゃんのおじいちゃんのころから この家を守ってきた」木です。おじいさんのおじいさん、そしておじいさんを見てきたその木が、さえらをいま見ているのです。「木の先生」に、芭蕉が「奥の細道」で旅した杉並木を案内します。芭蕉が目にした杉並木、同じものを見ることによって時間の重なりが生まれ、芭蕉とのつながりが生まれます。
 「木の先生」に「ちんじゅの森のおまつり」を案内します。羽織、袴の正装したおじいさんに、「かっこいいですネ。いつもとちがいますネ。」と「木の先生」が声をかけます。違うのは、祭りの日には、いつもとは違った時間が流れるため。違ったものにするために、違った装いをするとも言えます。今年が「出番」の女の子は、自分の名前を提灯に入れてもらいます。さえらもその一人、「世界にたったひとつ、この日の自分が今夜、灯りにともされる」のです。「たったひとつ」が意味するものは、特別なもの、聖なるもの。手古舞の衣装をつけ、さえらが踊るハレの日です。
屋台が繰り出します。イチョウやトチ、ヤナギから作られる屋台は、その地に育った木が形を変えたもの、木に籠もった長い時間が屋台へと移るのです。「ここらで一番のじいさんケヤキが、葉のない枝をわさわさふるわせ」、特別な日であることを告げています。「今夜、ちんじゅの森は、ねむりません。」
長い祭りの一日を過ごしたさえらは眠ってしまいました。「さえらは、どんな木に育ちますかね。・・・」そう言うのは、さえらをおんぶした「木の先生」と並んで歩くおじいさんです。おじいさんは庭師、さえらは庭師のおじいさんの孫なのです。

(藤田 博)


[ 123 | 4 ]
図書館のホームページに戻る バックナンバー
Copyright(C) Miyagi University of Education Library 2010