〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.21 2011年3月号
バックナンバーはこちら
[ 1 | 2 | 34 ]

■ 熊とクマとくま

藤田  博 

 絵本に描かれる動物が数多くあるのは言うまでもありません。中でもクマは際立って多いと言えます。なぜそうなのかを問うことで、クマとはどのような動物なのか、どのような受け止め方をされているのかが見えてきます。 
 森の中、積もった雪の上に「てぶくろ」が片方落ちています。エウゲーニー・M・ラチョフ絵・うちだりさこ訳『てぶくろ』(福音館書店)の始まりです。くいしんぼねずみが、ぴょんぴょんがえるが入ります。入れたとしてせいぜいそこまで、あとは無理と思われるところへ、はやあしうさぎが、おしゃれぎつねがやって来ます。「もうこれで四ひきになりました。」今度ははいいろおおかみです。「まあいいでしょう。」つづいてはきばもちいのしし。「ちょっとむりじゃないですか。」「ちょっとむり」の域ははるかに超えています。それでいて入ってしまう不思議さ、驚き。「もうこれで六ぴきです。てぶくろはぎゅうぎゅうづめです。」やって来るのはのっそりぐまです。そこにあるのは、くまが群を抜いて大きいことへの共通理解。最後がくまでなければならないのはそのためなのです。「まんいんです。・・・いまにもはじけそうです。」そう言いながら、くまは入ってしまうのです。ありを飲み込んだかまきりを飲み込んだむくどりを飲み込んだやまねこ、そのやまねこをくまが飲み込む、石井桃子作・中川宗弥絵『ありこのおつかい』(福音館書店)の最後もくまです。飲み込み、飲み込まれの最後は大きなくま、最後にくまを出さなければ終わらないのです。
「てぶくろ」の不思議は、最後にも用意されています。おじいさんが見つけたのは、くままでが入ることのできる巨大なものでなければならないはずです。しかし、見て驚いた形になっていないことから、落とした自分のてぶくろを見つけただけ、大きさに変わりがないのがわかります。くまの入る「てぶくろ」とおじいさんの「てぶくろ」が並列する、奇妙な感覚はそこから生まれているのです。
マイケル・ローゼン再話・ヘレン・オクセンバリー絵・山口文生訳『きょうはみんなでクマ狩りだ』(評論社)の始まりはクマ狩りです。草原へとやって来ます。「うえを こえては いかれない。したを くぐっても いかれない。こまったぞ!とおりぬけるしか ないようだ!」次は川、次はぬかるみ、次は森、リズミカルな繰り返しの中、ページ右側にいるはずのクマ、頭の中のクマが大きくなっていきます。見えていないからこそ大きさを増していくのです。見つけたほら穴で目指すクマと出会います。「クマ狩り」であるにもかかわらず、大慌てでもと来た道を戻ります。絵が小さく、連続した形になっていることによって、追ってくるクマの怖さが伝わってきます。家へと戻り、鍵をかけます。階段を上り、二階へと上がります。クマのいる地平と違った地平に、それによってようやく安心できるのです。ふとんをかぶることで安心感はより高まります。「ぼくらは もう クマがりなんかに でかけない。」は安心できたからこその言葉です。何倍もの大きな字でこれが強調されているのは、「絶対出かけない」、それでいて「必ずまた出かける」ことを示すためです。「きょうはみんなでクマ狩りだ」と勇んで出かけ、そしてまた逃げ帰るの繰り返しが見えています。行って帰るの繰り返しは、怖い、それでいて怖くないものの揺れ、熊がクマを越えてくまになる、もしくはその逆に、くまがクマを越えて熊になることの揺れそのものなのです。
 神沢利子作・平山英三絵『ぽとんぽとんはなんのおと』(福音館書店)は、冬ごもりする母ぐまと子ぐまの話です。大きくて黒い母ぐま、その隣に生まれたばかりの双子の子ぐまがいます。外の世界を知らない子ぐまは、興味津々で問い掛けます。「ぽとん ぽとんって おとがするよ。ぽとん ぽとんって なんのおと?」「あれは つららの とける おとよ。」「かあさん、はなが くすぐったいよ。なんだか いい においだね。」「はるかぜよ、ぼうや。」春になり、「ながい ふゆごもりの あなから、かあさんと ぼうやの くまは あかるい そとへ でていきました。」ここにあるのは季節の巡りの円環、冬ごもりするくまは円環とつながっているのです。『てぶくろ』は、くまが出てきたことによって元のてぶくろへと戻ります。『きょうはみんなでクマ狩りだ』は、クマに出会ったことによって、逃げ帰り、そしてまた出かけます。同じ円環がここにあるのです。
「てぶくろ」エウゲーニー・M・ラチョフ絵/うちだりさこ訳/福音館書店
※「きょうはみんなでクマがりだ」マイケル・ローゼン再話/ヘレン・オクセンバリー絵/山口文生訳/評論社
「ぽとんぽとんはなんのおと」神沢利子作/平山英三絵/福音館書店

(英語教育講座)


[ 1 | 2 | 34 ]
図書館のホームページに戻る バックナンバー
Copyright(C) Miyagi University of Education Library 2010