〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.21 2011年3月号
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■ 「ビロードのうさぎ」の温かさ

千葉 努


私の家には、小学1年生と保育所の年子の娘がいます。娘たちには、物心つく前から、寝る前に絵本を読み聞かせしてきました。寝る時間になると、3人で2階に上がり、部屋を暗くしてヘッドライトの明かりだけをつけて、一緒の布団に入って絵本を読み聞かせるのが我が家の毎日です。絵本を読んでいていいな、と思うのは、子どもが、読めば読むほど絵本に感情移入できるようになることです。その絵本の世界を五感全部を使い、体全体で受け止めている感じがよく分かります。「〜だとさ。おしまい」と言った後のほんの数秒の余韻を、娘たちながらに何かを感じて、かみしめている様子が伝わってくるのです。それが読むほどに深まっている気がします。
ある男の子にプレゼントされたビロードのぬいぐるみのウサギ。始めは見向きもしなかった男の子ですが、あるきっかけからそのウサギを大事にするようになります。寝るときも一緒、遊びに行くときも一緒。このぬいぐるみは、自分が本当のウサギと思っています。そして、自分がこの男の子に愛されていることを全身で感じ取っているのです。しかし、あるとき、男の子が連れて行ってくれた森で本物のウサギと出会い、自分が本当のウサギではないのでは、と考えるようになります。その後、男の子は伝染病にかかります。身の回りのものを焼いてしまうよう医者から言われ、お手伝いさんが部屋のものを片付けます。ビロードのウサギも袋に入れられ、捨てられようとします。ビロードのウサギはそれまでの思い出を懐かしみ、とても悲しい気持ちでいました。そこに、妖精が現れたのです。妖精はウサギに、「これからは だれもが あなたを ほんとうの うさぎにみえるように してあげる」と言って、魔法で本物のウサギにしてくれるのです。男の子はあるとき、野山をかけるウサギを見かけます。どこかで見覚えがあるような気がしながら、そのウサギを見つめる男の子が描かれ、物語は終わります。
娘たちは絵本を読んでいて、分からないことがあると「どうして○○なの?」とよく聞いてきます。この絵本を読んだときには、「どうしてウサギは捨てられちゃうの?」でした。それほどウサギに感情移入していたのだと思います。ウサギが捨てられそうになったときには、食い入るような目で見ていました。そして、物語が終わり、本を閉じた後、娘たちはほんのりした笑顔で私にぎゅーっと抱きついてきました。そのときの二人の表情は何とも言えないいいものでした。私が「ウサギさんよかったね」と言うと、「うん」と言ってはにかんだ笑顔をまた見せてくれました。
この絵本は、ストーリーはもちろんですが、絵の表情や雰囲気が絵本の世界にとてもよくマッチしています。文章も、心理描写が細かく描かれており、読んでいくほど引き込まれる語り口になっています。「雰囲気のある」物語だと思います。この絵本を読んで以来、娘たちはお気に入りだったぬいぐるみによりいっそう思い入れを強くし、大事にするようになりました。家の大掃除をし、いらなくなった大量のぬいぐるみをこっそり処分しようとしていたところを見つかってしまい、私が悪魔の使いであるかのごとくに娘たちに責められたのも、娘たちのそうした思いを表しているように思います。
この絵本には、心を温かくし、子どもの思いを深めていく力があるのです。
※「ビロードのうさぎ」マージェリィ・W・ビアンコ・原作 /酒井駒子・絵・抄訳/ブロンズ新社

(附属中学校教諭)


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