■ 絵本の良さと危うさ
藤島 省太
今回、原稿依頼をいただき、久々に書店の絵本コーナーを覘いてみた。昔とは較べものにならない色鮮やかな絵本が並び、ひときわ華やいだ雰囲気がそこにはあった。内容も、私の子ども時代にはなかったキャラクター、アニメ、抽象画など様々で、絵本に魅入ってしまった。
絵本には、擬人化した動物が登場する作品も多い。何故動物なのか素人の私にはわからないが、おそらく動物に由来する象徴性や虚構性・ファンタジー性などの意味と、人間を登場させたときに生じる現実性や辛辣さを緩和する効果があるようにも思う。他方、人気キャラクターを主人公とした名作絵本などは、商業趣味が鼻につくこともある。
おとなのための絵本は、物語性や絵の抽象性による癒し効果をもつものも多いように思われる。一方、子どもにとっての絵本は、わかりやすく話を展開し、言語表現の豊かさや物語性、言葉で伝えきれない想像性を育み、情操を育てるには格好の素材であると思う。
そんなこともあってか、私はごく身近な子どもの生活世界を描いた絵本が好きである。『はじめてのおつかい』という絵本は、初めて経験するドキドキ感が原体験のように共有され、主人公の心情を自分と重ね合わせてイメージできるようにも思う。また、私の子どもの頃のような懐古的な風景が描かれているせいか、温もりが伝わってくる作品である。
絵本とはやや異なるが、昔、紙芝居に熱中し、公園などで子どもたちに紙芝居を演じていた学生がいた。彼はしょうがいのある子にも紙芝居の楽しさを伝えたいと卒業研究に紙芝居を取り上げた。そして、あるお子さんに向け紙芝居を実演してもらった際、あまりの迫真の演技にお子さんは怖くなってしまい、「もうやめようよ…」と言って舞台の扉を閉じてしまった。そこで私が代わって演じてみせると、そのお子さんはじっくり最後まで紙芝居を観てくれたことがある。そこで彼が学んだことは、紙芝居もその時々の子どもの表情などを読みとり、関係性を大切にしながら演じるということだった。どんなに素晴らしい作品であっても、それを介したやりとりに相手を思う気もちや言葉かけがなければ、生きた絵本にはならないように思うのである。
※「はじめてのおつかい」/筒井頼子・作/林 明子・絵/福音館書店
(特別支援教育講座)