〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.20 2011年1月号
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■ 「はじめて」のドキドキ感を思い出させてくれるこの一冊

ゼバスティアン・メッシェンモーザー・作/松永美穂・訳
リスとはじめての雪』(コンセル)

 松原  希

冬が近づいたある日のこと、「ふゆっていうのはね、とってもきれいなんだ。雪がふってきて、なにもかも まっ白になるんだ!」リスはヤギから雪の話を聞きました。冬の間眠りつづけるリスは、雪を見たことがありません。「こんどこそ、おきていよう。はじめての雪がふって、ふゆが やってくるまで!」リスは、何度も眠りそうになりながら冬を待ちます。
リスが冬を待つのなら、ハリネズミだって眠るわけにはいきません。ハリネズミも冬を知らないのですから。「ぜったい みなくちゃ!」二匹でいれば見逃すはずはありません。大声で歌って眠気を吹き飛ばします。その声に誘われてクマが現れます。冬中眠っているクマも、まだ雪を見たことがないのです。
 しろくて、しめっぽくて、つめたくて、やわらかい――ヤギは雪をそんな風に言っていました。でも、三匹とも雪を見たことがないのです。「はじめての雪」はもう降っているのかもしれません。「すぐに雪を さがさなくちゃ!」三匹は雪を探し始めます。
 ハリネズミが見つけました。「白くて、しめっぽくて、つめたいもの――これが はじめての雪だ!もし これがたくさんふってきたら、ふゆは どんなにきれいだろう・・・」そう言って持ってきたのは、ハブラシです。つづいてリスが見つけます。「はじめての雪だよ、みつけたんだ!白くて、つめたくて、このなかは けっこうしめっぽいよ。ふゆは どんなにきれいだろう・・・」持ってきたのは、空きカンです。クマも見つけてきます。「これがはじめての雪だよ!」手に持っていたのは、靴下でした。三匹が雪を見つけることはできるのでしょうか。
この絵本では、見たことのない「雪」を心待ちにする動物の様子が、生き生きと描かれています。「雪」への大きな期待と少しの不安。「はじめて」が、その気持ちをなお一層かき立てます。
冬の訪れを告げる初雪。初雪を見ると心躍るのはなぜでしょう。忙しい足を止め、空を見上げ、手をかざしてしまうのはなぜでしょう。雪の白さ、純粋さが心を引きつけるのかもしれません。そうだとすれば、心もまた純粋だからということになります。その純粋さを忘れることのない大人であり続けたいと思います。

(英語コミュニケーションコース4年)


■ 新刊紹介

斎藤惇夫『哲夫の春休み』(岩波書店)

 
 父の故郷、長岡へ向かう列車の中で、哲夫は同じく長岡へ向かう順子(なおこ)と出会います。その車中で時間の揺れ、切れ切れの形でのタイムスリップ(こちらが向こうの世界に入り込むのではない、向こうの世界のものが幻となって現れるこれをタイムスリップと呼べばということ)が始まるのは、順子のためと言えるのです。順子は哲夫の父の一つ下、同じ学校に通っていた同窓生、そして、みどりの母です。哲夫は12才、4月からは中学生に。その哲夫の、春休みを利用しての一人旅です。春休み、12才、時間を飛び超える要素はそろっていることになります。「春休み」には、時間の止まった休暇の意味が、円を象徴する「12」には円環的時間が示されているからです。
 長岡に着いた哲夫は、父の住んでいた家の跡を訪ねます。「あなたを待っていたのよ ずうっと ずうっと待っていたの。」とのささやき声が聞こえてきます。見えてきたのは、子どものときの父。そこにあるのは、目の前にいる小さな男の子が自分の父である奇妙さです。見覚えのある時計を目にします。「お母さん」のその時計は、浦和の家のおばあさんのもの。「おばあさん」が焼いた栗を口の中に入れてくれます。その甘い香りが口に残ります。
哲夫とみどりが信濃川の土手を行きます。強い風が吹きつける、その時二人が見たものは、岸辺で遊ぶ幼いころの哲夫の父の姿です。流れつづける川が、時間を後戻りさせる形で見せてくれたのです。
雪の積もった神社の参道、その石段を順子と哲夫とみどりが上ります。雪は積み重なる時間の象徴と同時に、めぐり来る時間の象徴です。順子は長岡で過ごした十代最後の春休みへと戻っていきます。「あの時」を追体験する母、その若い母がみどりの目の前にいるのです。幼い父を見る哲夫、若い母を見るみどり、哲夫の時間の中にいる父、みどりの時間の中にいる母、そして、その逆、含む、含まれるの関係が見えてくるのです。
「ガンバの冒険」シリーズの三作目『ガンバとカワウソの冒険』から28年ぶりの作品です。川を遡るガンバとカワウソ。そこでの「大川」に重ねられていた故郷、長岡を流れる信濃川が、ここでは真ん中をとうとうと流れているのです。

(藤田 博)


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