■ 読み聞かせから「読書ゆうびん」へ
佐藤 浩一
「今日は絵本を持って来たよ。」
「えー?絵本?」
小学6年生の頃のことである。担任の先生が絵本の読み聞かせをしてくれた。(6年生にもなって、絵本なんて…。)当時の私、というよりも、おそらく学級のほとんどの友達がそう思っていた。
読み聞かせが始まった。鉛筆だけで描かれたシンプルで小さなイラスト。繰り返しの表現。ストーリーもいたって明解な絵本であった。しかし、登場人物のあたたかな会話とリズミカルな言葉のひびき、そして何より楽しそうに読んでくれる先生の表情に、いつの間にか教室中が絵本の中に引き込まれていた。私にとっての思い出の絵本、『ねずみくんのチョッキ』との出会いである。
当然のことながら、読書量や選書傾向は子どもによって異なる。子どもと本との出会い方にはさまざまな形が考えられるが、現在担任している2年生の子どもたちに、さまざまな本と向き合う場をつくり、読書の幅を広げるきっかけを与えることができればと考えながら日々の授業にあたっている。
「お手紙」(アーノルド・ローベル作 光村図書2年下)は、少しわがままで自分勝手ながまくんと、行動的で優しいかえるくんのほのぼのとしたやりとりが描かれた物語である。
子どもたちには、音読を通して互いの理解を確認し合ったり、気付いたことを音読に反映させたりしていくことを通して、がまくんとかえるくんの気持ちの変化に気付いたり、友情の深さに浸ったりさせながら、物語の展開に即して変化していく場面の様子をつかむ力を定着させたいと考え授業を行った。
単元の最後に、がまくんとかえるくんを描いたアーノルド・ローベルの『ふたりはともだち』を紹介した。少々小さ目の体裁の絵本なのだが、子どもたちはみなじっと挿絵を見つめながら読みを聞いていた。「お手紙」の学習を通して、がまくんやかえるくんの気持ちを読み取ってきた子どもたちにとって、二人のやりとりは、何かすっかりお馴染みのものになっているようで、相変わらずマイペースながまくんの言動に、「しょうがないなあ。」「がまくんらしいねえ。」と微笑んだり、がまくんの言動を受け止めるかえるくんには、「かえるくんはがまくんのことを本当に分かっているんだね。」「さすがかえるくん!」などと納得したりしながら物語を味わっていた。その後も図書室で同じシリーズの本を借りる姿が見られるなど、学習を通して登場人物への親しみを深め、他の作品へと関心を高めていくことができた。
また、「名前を見てちょうだい」(あまんきみこ作 東京書籍2年下)では、図書室を活用し、自分が選んだ物語のおもしろいところや好きなところを紹介し合う「読書ゆうびん」の活動を行った。「名前を見てちょうだい」は、主人公えっちゃんが、風に飛ばされてしまった帽子を追って不思議な世界を冒険する物語で、子どもたちが自分と主人公とを同化させたり、応援する気持ちをもったりしながら楽しく読み進めることができる作品である。学習を通して、心に残った言葉やおもしろい場面などを交流する楽しさにふれさせることで、読むことの楽しさを味わわせ、読書への関心をより高めさせていくようにしたいと考えた。
「読書ゆうびん」の活動では、子どもたち一人一人に図書室にある絵本や物語の中から1冊の本を選ばせ、その紹介文を手紙形式にまとめさせた。子どもたちは、自分の好きな物語を友達に紹介することによって、相手意識を明確にして物語のよさを改めてとらえ直すことができた。同時に、友達の紹介する物語に関心をもち、その本を実際に読んでみるなど読書活動の広がりも見られた。
子どもの提案で、学級の2学期の係活動に新たに「絵本係」が加わった。係の子どもたちは毎週図書室から何冊かの本を選び、帰りの会で紹介したり、子ども同士で読み聞かせの会を開いたりしている。また、授業の合間などに読み聞かせができるよう、学級には学級文庫を設置している。書店で目に留まった絵本を買い集めるうちに少しずつ絵本の数は増えてきている。もちろんその中には、私にとっての読み聞かせの“ルーツ”とも言える『ねずみくんのチョッキ』シリーズも並んでいる。
※「ねずみくんのチョッキ」なかえよしを・作/上野紀子・絵/ポプラ社
※「ふたりはともだち」アーノルド・ローベル・作/三木卓訳/文化出版局
(附属小学校教諭)