〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.20 2011年1月号
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■ 橋を渡る

藤田  博 

 こちら側とあちら側、橋は二つの世界をつなぐもの。橋が出会いの場所となり、運命を変える場所となるのはそのためと言えます。
長崎源之助作・鈴木義治絵『つりばしわたれ』(岩崎書店)で橋を渡るのは、東京から一人、おばあさんの家にやって来たトッコです。山の子どもたちが、「やーい、もやしっ子。くやしかったら、つりばしわたって、かけてこい」と、トッコをはやし立てます。仲良くなりたい気持ちがありながら、村の子どもを突っぱねてしまった結果です。さびしさのあまり、病気の母のいる東京の方に向かってトッコは叫びます。声がこだまとなって返ってきます。トッコの前に、かすりの着物を着た男の子が現れたのはその時です。「おかしな子ね」とトッコ、「おかしな子ね」と男の子。男の子がつりばしを渡ります。トッコもその後をついていつの間にかつりばしを渡っていたのです。揺れるつりばしを渡って向こう側に行けたことが、トッコの成長の跡を示しています。「おめえ、つりばしわたれたから、いっしょに あそんでやるよ」、山の子からはそう声がかかります。
トッコの前に現れた男の子は誰だったのでしょう。母親が姿を変えたもの、トッコを思う母親が遣わしたもの、もう一人の自分が現れたもの、いくつもの解釈が可能です。確かなのは、それが橋という境目に現れたことなのです。
 三びきのやぎが山へ向かいます。山で草を食べ太るためです。それには、下に魔性のものトロルがいる橋を渡らなければなりません。橋という境、その下に棲む魔性のもの、マーシャ・ブラウン絵・瀬田貞二訳『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)の始まりです。「ちいさいやぎの がらがらどんが・・・かた こと かた こと」、つづいて「二ばんめのやぎの がらがらどんが・・・がた ごと がた ごと」橋を渡ります。昔話に広く見られる「三」のパターンです。繰り返しのリズムが作り出す、一、二、そして、三、三で変わることへの期待がそこから生まれます。その多くで、三は一番年下の小さなもの、力のないものの形をとります。長兄、次兄が打ち負かされ、飲み込まれた相手を末の弟がやっつけ、退治できるのは、小さくとも、もしくは小さいからこそ知恵を持っていることによります。それがここでは違っています。渡るのは小さいやぎから。大きいやぎがトロルをどうやっつけるか、考えられる二つの方法の一つ、力のあることが選択されているからです。知恵比べより力比べ、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの世界に拍手喝采することになるのです。
きつねとうさぎ――食べる、食べられるの捕食関係にある二匹が橋を渡ります。追いかけられるうさぎが先、追いかけるきつねが後なのは言うまでもありません。「ここを わたって まるたを おとせば にげられるぞ」、うさぎが思います。「このまるたを わたらせなければ つかまえられるぜ」、きつねが思います。二匹がそれぞれに喜んだその時、丸太の橋が傾き始めます。あわてて後ずさりするきつね。うさぎをつかまえようとすれば、バランスが崩れ、橋は傾きます。シーソーのように揺れる橋の上で、きつねが「ちょうど つりあいの とれるところを さがした」のは、自分の命がかかっていることから当然です。そうしなければ、うさぎもろとも深い谷に落ち、谷川に飲まれてしまうことになるのです。「ゆらゆらばし」が作り出したのは、文字通り支え合わなければならない状況、「でも なんか へんだよね。さっきまで ぼくを たべようとしてた きみが ぼくに いのちを だいじにしろだなんて」、「いまは おたがいの おもさが ないと こまるんだよね」うさぎのことば通りの状況だったのです。
橋がぐるぐる回り出したことで、ようやくその一方が岸に届きます。うさぎがきつねの背中をぴょんと渡ります。うさぎの手につかまって、きつねも土手にはい上がります。上がるとすぐにうさぎを追いかけ始めたきつねは、「おっと おれって こわかったあとは おしっこ するんだっけ」、そう言って急に走るのを止めます。それをどう受け止めるかは、きつねとうさぎが今度出会ったらどうなるかの答えを考えることと一つです。橋の上で生まれた二匹の友情関係は、橋の上だったからのことと考えるか、持続すると考えるか――きむらゆういち文・はたこうしろう絵『ゆらゆらばしのうえで』(福音館書店)が問いかけているのはそれなのです。
 
※「つりばしわたれ」長崎源之助作・鈴木義治絵/岩崎書店
※「三びきのやぎのがらがらどん」マーシャ・ブラウン絵・瀬田貞二訳/福音館書店
※「ゆらゆらばしのうえで」きむらゆういち文・はたこうしろう絵/福音館書店

(英語教育講座)


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