〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.19 2010年11月号
バックナンバーはこちら
[ 123 | 4 ]

■ 読み聞かせしてもらった思い出がよみがえるこの一冊

林 明子作・絵『はじめてのキャンプ』(福音館書店)

後藤 あや子


 小さい頃、毎日、楽しみにしていたことがありました。寝る前にベッドで、好きな絵本を両親に一冊読んでもらうことです。目の前に広がる世界にいつもわくわくしていました。そうして読んでもらった数多くの絵本の中から、心に残る1冊を紹介したいと思います。
 なほちゃんは小さな女の子です。おおきい子だけでキャンプに行くと聞いて悔しくなったなほちゃんは、「わたしもいく!」と言い出します。なほちゃんの「はじめてのキャンプ」の始まりです。重い荷物運びに薪集め・・・小さいなほちゃんには大変な仕事ばかりです。それでも、なほちゃんはおおきい子に負けじと頑張ります。そして夜、みんなが寝静まった頃、なほちゃんはおしっこに行きたくなります。ともこおばさんに声をかけても起きてくれません。仕方なく一人でテントを出ると、外は真っ暗、虫の声が響いています。近くの草むらでおしっこを済ませたなほちゃんは、急に怖くなります。急いでテントに戻ろうするなほちゃんの目に何か動くものが。テントに入りかけた時には、髪の毛とシャツを誰かに引っ張られたような気が。夢中で逃げ込んだなほちゃんを包んでくれたのは、ともこおばさんの優しい声でした・・・。大自然に囲まれての初めてのキャンプ。絵本の最後には、様々な経験を通してひとまわり成長したなほちゃんの姿を見ることができます。
 子どもの頃、家族でよくキャンプに出かけていた私には、夜、一人でテントを出た時の、深い森に囲まれた何とも言えないあの恐怖感がよく分かります。ここには、子どもの抱くそうした思いがよくとらえられています。絵が赤、青、黄、黒、白の5色で描かれているのも大きな特徴です。色使いがシンプルであることで、読み手が中身にじっくり目を向けられるようになっているのです。
大学生になった今、絵本を読む機会はなくなっています。久々に絵本を手に取り、時間をかけて読み返してみました。絵本の中身と共に、これを両親に読んでもらった時の様が思い出となってよみがえり、懐かしい気持ちでいっぱいになりました。私が親になった時、先生となって生徒を受け持った時、自分がしてもらったように、たくさんの絵本を読んでやりたいと思います。
 

(教育心理学コース3年)


■ 新刊紹介

井上洋介文・絵『ぎゅうぎゅうどうぶつえん』(芸術新聞社)

 
部屋とは、くつろぎ、安心できるところ、その部屋に突然、動物が顔を出したら。しかも、壁を突き破ってであったとしたら。次から次へと押し寄せるおまけまでがついたとしたら。時計の振子が、剣玉のひもが、切れんばかりに右に左に大揺れに揺れて当然です。天井裏のネズミが、右に行き、左に行きして当然です。
 キリンは「ながいくび ぎゅうん ぎゅうん」、バッファローは「どぎゅ ぎゅ ぎゅ」、 カバは「ぶほーっ ぶほーっ むぎゅ ぎゅーっ」、セミは「ぢぢぢ ぢぢぢぢ ぢっ ぢっ」、カブトムシは「がり がり がり がり がが どどど」、ゾウは「こどもつれて はな ぶらん ぶらん ぶらん」・・・モグラは「もぐ ぎゅう もぐ ぎゅう」、ヤマアラシは「けを たてて ばさ ばさ ぶさ ぶさ」、そしてバクは「ゆめみたら たべさせて」
 キリンにバッファローにカバにセミ・・・、「ぼく」の部屋が「ぎゅうぎゅうどうぶつえん」になったのです。部屋に入り切れるはずがないなどは余計な心配。大きなものも小さなものもすべてが集まって、入り切れないものが入ってしまうのが「ぎゅうぎゅうどうぶつえん」だからです。部屋一杯の動物が、「ぼく」の手にする絵本から飛び出したものであることは、最後になってわかります。これが夢を食べるバクを登場させることと一つになって、種明かし的役割を果たしているのです。
井上洋介独特の奇想天外の世界がここにあります。その意味では、この種明かしはない方がいいのかもしれません。「ゆっくり のんびり おさんぽ でんしゃ・・・かいだん のぼる かいだん でんしゃ ゆっくり みごとに のぼって いくよ」は『でんしゃえほん』(ビリケン出版)の世界、「ひぐれの町の 曲がり道 何が出るのか 曲がり道」は『まがれば まがりみち』(福音館書店)の世界。日暮れに曲がり道、二つが重なれば何が出てもおかしくない、何がどうなってもおかしくありません。ねじ曲がり、ワープする、すべてが驚きの異空間なのです。それを導き出しているのが「ゆっくり」散歩、「ゆっくり」くつろぐ部屋、日常世界に非日常世界の穴が開くのは、目的を持たない「ゆっくり」だからこそのものと言えるのです。

(藤田 博)


[ 123 | 4 ]
図書館のホームページに戻る バックナンバー
Copyright(C) Miyagi University of Education Library 2008