〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.18 2010年9月号
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■ いつまでも一緒にいたいと思うすばらしさを教えてくれるこの一冊

ガース・ウィリアムズ文・絵/まつおかきょうこ訳
『しろいうさぎとくろいうさぎ』(福音館書店)

後藤 姫奈

 白いうさぎと黒いうさぎが森の中に棲んでいます。二ひきは毎日、楽しく遊びます。いつものように、馬とびをします。ところが、しばらくすると、黒いうさぎは座り込み、悲しそうな顔をするのです。「どうかしたの?」白いうさぎがそう聞くと、「うん、ぼく、ちょっと かんがえてたんだ」と答えます。かくれんぼをしても、どんぐり探しをしても、かけっこをしても、ひなぎく跳びをしても、クローバーくぐりをしても、その度に黒いうさぎは座り込み、悲しそうな顔をして言うのです。「うん、ぼく、ちょっと かんがえてたんだ」
 「さっきから、なにを そんなに かんがえてるの?」白いうさぎの問い掛けに、黒いうさぎは答えます。「ぼく、ねがいごとを しているんだよ」「ねがいごとって?」との問い掛けに、黒いうさぎは、その願いごとを口にするのです。「いつも いつも、いつまでも、きみといっしょに いられますようにってさ」
 白いうさぎは手を差し伸べます。黒いうさぎがやわらかなその手をそっとにぎります。それから二匹は、たんぽぽの花を摘み、耳にさします。幸せそうな二ひきの様子を見に、他のうさぎや森の動物たちが集まってきます。月明かりの下、皆で結婚式のダンスを踊るのです。
二ひきのうさぎは、今日も一緒に楽しく遊び、暮らしています。黒いうさぎが、悲しそうな顔をすることはもうありません。
この絵本では、白と黒だけと思われるほどに色が使われていません。それでいて、悲しげな黒いうさぎの顔、黒いうさぎの願いごとを聞いた白いうさぎの驚いた顔、「ねえ、そのこと、もっと いっしょうけんめい ねがってごらんなさいよ」と白いうさぎに言われ、心を籠めて「これからさき、いつも きみといっしょに いられますように!」と言う黒いうさぎ、すべてが繊細に活き活きと描かれています。
黒いうさぎが悲しそうな顔をするのはどうしてなのか、小さい頃不思議に思いましたが、いま読むと、黒いうさぎの気持ちが、白いうさぎの気持ちがよくわかります。人を好きになること、いつまでも一緒にいたいと思うことのすばらしさが、シンプルでありながら豊かに描き出されているのです。読み終えると、ほのぼのとした幸せな気持ちになります。いつか自分の子どもに読んでやり、黒いうさぎの切ない気持ちがわかる日がくるのを見守りたいと思う、私のお気に入りの一冊です。
 

(英語コミュニケーションコース4年)


■ 新刊紹介

いまいあやの作・絵『くつやのねこ』(BL出版)

 客がめったに来ない、店じまい寸前の靴やに飼われているねこがいます。ねこがご主人様に言います、「よい かんがえが あります。ひとつ わたしに、いちばんよい 革で 長ぐつを つくってください。それを はいて 注文を もらってきますよ。」「よいかんがえがあります」とは、知恵があること、知恵があるとは、先が見え、先回りができること。「注文」が、相手に「注文」を出し、思い通りにコントロールする意味をも含むのはそのためです。
ねこは魔物の城へと向かいます。むき出しの魔物の足とぴったりの赤い靴をはいたねこの足の違いは歴然としています。そう見えるようねこが立てた計算です。魔物は大きなもの、小さなもの、ねこの注文通りに変身します。その度に魔物の足を測り、一足、また一足と、靴やに注文を入れるのです。
靴の代金を払ってもらえないことから、「また よい かんがえを おもいついた」ねこは、小さな小さな靴を作ってもらい、再び魔物の城に向かいます。「いくら あなたでも これが はけるような 小さなものに 変身するのは むりでしょう」、そう言って魔物を挑発するのです。挑発に乗った魔物はねずみに変身、待ちかまえていたねこはぺろりと食べてしまいます。ここでも見えているのは先回りの知恵です。魔物を恐れて近づくことさえしなかった村人が、魔物の城を店にした靴やに次々にやってきます。店先に並んでいるのは、とてつもなく大きな靴から小さな小さな靴。その靴が何なのかを知っているのはねこと靴やです。あるいは靴やさえ知らない、知っているのはねこだけかもしれません。
ペローの「長靴をはいたねこ」を基にした絵本です。死んだふりをしてつかまえたうさぎをカラバ侯爵からのものと王の城に持参する、王の行列が通るのを見越して、ご主人様に溺れたふりをさせる、そうしてご主人様をカラバ侯爵に仕立て上げ、王の娘と結婚させる筋立ては削られています。ここにあるのは、人食い鬼を挑発し、小さなものに変身させて食べてしまう部分だけ。靴をはいた靴やのねこが、靴によって魔物をやっつけ、ご主人様に尽くす、すべてが靴に、靴をめぐる物語に変えられていることになります。

(藤田 博)


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