〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.11 2010年7月号
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■ 思い込みから自由でいることの大切さを教えてくれるこの一冊

オルガ・ルカイユ文・絵/こだましおり訳『おおかみのおいしゃさん』(岩波書店)

奈良 友梨恵

具合の悪い子うさぎのマルクを連れて、おかあさんうさぎがお医者さんのところへ出かけます。もぐらのお医者さんが出した処方箋は、「土にもぐって トンネルを ほることだわな」、犬は、「ほねを 1日3かい かじればよろしい」、鳥は、「空を とぶようにと、ピイピイ うるさく」、猫は、「のねずみのパテや ねずみのタルトほど からだにいいものは ないんだがニャア」、魚は、「ずーっと 水のなかに もぐったまま およぐこと」でした。
 そこにやって来たふくろうは、おおかみのお医者さんを紹介します。おかあさんは、「おおかみは こうさぎを たべる わるいやつですよ」と言いますが、ふくろうは構うことなくおおかみを呼んでしまいます。「おねがいです。この子を たべないでください!」と懇願するおかあさんに、おおかみは大笑いしながら、「ぼうや、どうおもうかね?わたしが ぼうやを たべると おもうかい?」
 「マルク、にげるのよ!」こわくてたまらないおかあさんは、顔を覆い、繁みに向かって駆け出します。振り返ると、マルクがいません。怖いのを我慢して、おおかみの家に行きます。窓からのぞいてみると、本の読み聞かせをするおおかみの声が聞こえてきます。「・・・こうして かしこい のうさぎの セグカロは、マルキロッソという うぬぼれやの チーターを 村から おいだしました。」いとこののうさぎの活躍にマルクは得意顔です。「ほらね、せんせい。のうさぎは かしこいんだよ!」
「なるほど。それなら、おおかみは みんな わるいやつで、のうさぎは みんな かしこいんだと おもうかね?」おおかみのその問い掛けに、マルクは考え込みます。マルクが窓の外の母親に気づきます。親子を椅子に座らせ、マルクを診察し、おおかみは医者の務めを果たしました。翌朝、おかあさんは、泊めてくれたおおかみにお礼を言い、マルクと共に家に帰ります。
自分の感覚や判断は大事にすべきものです。しかし、固定観念や思い込みから物事を判断したり、決め付けたりすると、真実を見落としてしまうことがあります。凝り固まった考えから自由でいることの難しさ、凝り固まった考えになってしまっている自分を振り返ることの大切さを教えてくれる一冊です。

(社会科教育専攻3年)


■ 新刊紹介

こみねゆら作・絵『にんぎょうげきだん』(白泉社)

 
 人形劇を演じながら旅をつづける劇団の物語です。演目の一つが「こえをなくした おんなのこ」、声の出ない女の子に小さな花が、「わたしの はなびらをたべて」と声をかけます。花びらを口に入れると、きれいな歌声が出てくるのです。「うたごえのとどいたさきには ちいさなおはなが ぽつんぽつんと さいてゆきました。」これは舞台の内、「にんぎょうげきだんが さってしまった のはらに、ぽつり ぽつりと ちいさなおはなが さいてゆきました。」これは舞台の外です。内と外の境が溶けて一つになるのです。
 疲れた足で野原を行く劇団の前に、一軒の家が見えます。「ドアをたたくと、むすめさんが でてきました。」出てきた娘さんが、一瞬、「こえをなくした おんなのこ」と重なり合います。夢と現実、二つの世界が交差する印象によってもたらされるものです。しかし、大きさの違いは明らかです。人形劇を演じるのが小さな人形だということ、人形が人形を使って人形劇を上演することを改めて知らされるのです。
 娘さんとおばあさんの前で演じたのは、「こえをなくした おんなのこ」です。演じるその舞台裏が見えています。舞台裏という現実、しかし、そこさえも舞台の一部に思えてきます。「みんなひさしぶりに ふるさとのゆめをみました。」人形が見るその夢のなかに旅をつづける劇団があり、劇団の演じる人形劇があるように思えてくるのです。「またらいねん、おばあさんとむすめさんに あいにきます。」劇団は旅をつづけます。
今度は夜の動物のための夜の上演、演目は「ちいさな おどりこ」です。ターンがうまくできない踊り子に、「みているよ。わたしたちずっと みているよ」と星が語りかけます。すると「くるくる たっ くるくる とーん」、ターンができるようになるのです。舞台は満天の星空です。野原にも星がまたたき始めます。ここには、舞台の内と外に咲く花と同じ形の繰り返しがあります。揺れる境目がつくり出されているのです。
人形劇団が額縁舞台の中にあることを扉絵が示しています。それによって、旅をする人形劇団そのものが劇になっている二重構造がわかります。外枠の付けられたページがそれを更に明確にしています。タイトルに与えられた二重の意味、「にんぎょうげきだん」は「人形劇を演じる劇団」なのか、「人形の劇団」なのかとも一つです。内と外とが揺らぐ奇妙な感覚は、そこから生まれ出ているのです。

(藤田 博)


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