■ 思い込みから自由でいることの大切さを教えてくれるこの一冊
オルガ・ルカイユ文・絵/こだましおり訳『おおかみのおいしゃさん』(岩波書店)奈良 友梨恵
具合の悪い子うさぎのマルクを連れて、おかあさんうさぎがお医者さんのところへ出かけます。もぐらのお医者さんが出した処方箋は、「土にもぐって トンネルを ほることだわな」、犬は、「ほねを 1日3かい かじればよろしい」、鳥は、「空を とぶようにと、ピイピイ うるさく」、猫は、「のねずみのパテや ねずみのタルトほど からだにいいものは ないんだがニャア」、魚は、「ずーっと 水のなかに もぐったまま およぐこと」でした。
そこにやって来たふくろうは、おおかみのお医者さんを紹介します。おかあさんは、「おおかみは こうさぎを たべる わるいやつですよ」と言いますが、ふくろうは構うことなくおおかみを呼んでしまいます。「おねがいです。この子を たべないでください!」と懇願するおかあさんに、おおかみは大笑いしながら、「ぼうや、どうおもうかね?わたしが ぼうやを たべると おもうかい?」
「マルク、にげるのよ!」こわくてたまらないおかあさんは、顔を覆い、繁みに向かって駆け出します。振り返ると、マルクがいません。怖いのを我慢して、おおかみの家に行きます。窓からのぞいてみると、本の読み聞かせをするおおかみの声が聞こえてきます。「・・・こうして かしこい のうさぎの セグカロは、マルキロッソという うぬぼれやの チーターを 村から おいだしました。」いとこののうさぎの活躍にマルクは得意顔です。「ほらね、せんせい。のうさぎは かしこいんだよ!」
「なるほど。それなら、おおかみは みんな わるいやつで、のうさぎは みんな かしこいんだと おもうかね?」おおかみのその問い掛けに、マルクは考え込みます。マルクが窓の外の母親に気づきます。親子を椅子に座らせ、マルクを診察し、おおかみは医者の務めを果たしました。翌朝、おかあさんは、泊めてくれたおおかみにお礼を言い、マルクと共に家に帰ります。
自分の感覚や判断は大事にすべきものです。しかし、固定観念や思い込みから物事を判断したり、決め付けたりすると、真実を見落としてしまうことがあります。凝り固まった考えから自由でいることの難しさ、凝り固まった考えになってしまっている自分を振り返ることの大切さを教えてくれる一冊です。
(社会科教育専攻3年)