〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.16 2010年5月号
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■ 「ごめんね」の言えることの大切さを教えてくれるこの一冊

内田麟太郎・作/降矢なな・絵『ごめんねともだち』(偕成社)

気田 真由子

 「『また、また、かっちゃった』キツネは わらいが とまりません。」キツネとオオカミの競い合い、キツネは5回も連続して勝っているのです。我慢できなくなったオオカミは、キツネに向かって、「そうだ、おまえが ズルしたからに ちがいない!」と言ってキツネの座っていたイスをけとばし、家から追い出します。「いしも ながされている どしゃぶりなのに・・・」です。
 キツネが出て行った後、オオカミはしょげ込んでしまいます。「お、おれの いいすぎだった。あいつは いんちきなんか ぜったい していない」それはオオカミが、誰れよりよく知っていたことなのです。負けて悔しくて、気がついたら叫んでしまっていたのです。
次の日、オオカミは散歩に出かけます。キツネに会えたら、「ごめんな」って謝るつもりだったのです。けれど、いざキツネに会うと、言えません。キツネもオオカミに声をかけたかったのに、ついそっぽを向いてしまいます。また次の日も、二人は原っぱで。「ごめん」の一言が言えないのです。
 三日目。二人は、いつも一緒に遊んでいる大きな木を背にうつむいています。オオカミはさびしくて爪を噛みます。(「ごめん」も いえないなんて。わるいのは おれなのに。)こらえ切れなくなったキツネは、涙をこぼします。(いやだよ、いやだよ。オオカミさんと これっきりに なるなんて・・・・)涙がアリの上に落ちます。アリはずぶぬれです。キツネはあわててアリにあやまります。「ごめんなさい」
それを聞いたオオカミが、木の向こうから飛び出します。「ごめんは こっちだ。おまえは ちっとも ちっとも わるくないぞ!」キツネをぎゅっと抱きしめたオオカミは、何度もほおずりしたのです。
「ごめん」の一言が言えないもどかしさ、誰もが経験したことがあるに違いありません。なかなか言い出せないその一言は、ほんの小さなきっかけでぽつりとこぼれ出るものです。教師という職業を目指して前に進んでいる今、この本を読んで、子どもたちに「ごめん」を言うことの大切さを教えられる教師になりたいと思いました。
 

(英語コミュニケーションコース4年)


■ 新刊紹介

フランシス・ホジソン・バーネット作/中村妙子訳『消えた王子(上・下)』(岩波少年文庫)

 サマヴィアという小さな国、国を二分しての確執がつづく中、「サマヴィアの希望の星」王子イヴォールが姿を消します。以来500年、王子が帰還する「その日」をひたすら待ちつづけるのです。国を逃れて地下に潜み、待ちつづける人も、そして王子その人も、何代にも渡って代替わりしているのは言うまでもありません。それだけ、「その日」に懸ける思いは厚く、重く積み重なっていることになります。
 マルコの目の前にいる父ロリスタン、その父が王子であるのは読者には最初からわかっています。ロリスタンがいつ王子であるのを明かすのか、待つのは読者も同じということです。バーネットのよく知られた作品二つ、『小公子』のセドリック、『小公女』のセーラの待つことが想起されます。わかっている答えが実現される、「その時」を待つのです。『秘密の花園』も同じです。「秘密の花園」は、メアリによって開かれる、「その時」を待っているのです。
 物語前半は「ゲーム」です。マルコの友人、台車で動き回る不自由な体のラットが指揮する、軍事訓練という名のゲームが、物語後半の旅に生きてきます。「昼間見たものをどれだけ記憶して正確に表現できるか、夜、父親にためしてもらう」、マルコが発明したゲームもあります。ゲームを通して培ったものが、マルコとラットの長い旅に生きるのです。積み上げられた待つ思いが、満を持してはき出されるのです。
二人は「合図の伝達者」としての旅に出ます。王子が帰還する「その日」がやって来たことを伝える暗号、「ランプがともった」を知らせて歩くのです。その中の一人、高い山の頂近くに住む老女に伝えたときのこと、「つぎの瞬間、彼女は深く腰をかがめた。信仰のあつい農民が祭壇の前でひざを折るようにうやうやしく。」この後も次々とランプをともして歩きます。知らせの届くのを待ちつづけながら死んだ人、数え切れないそうした人の無念の思いに灯をともして歩くのです。長い旅を終え、戻ってきたマルコを最後に待っているのは父との再会です。「なんということだろう。国王の目、それは別れて以来、マルコがふたたび見つめたいと切にあこがれてきた、なつかしい父親の目だったのだ。」

(藤田 博)


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