〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.15 2010年3月号 PDF版はこちら
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■ 「その本」と出合うとき・・・・・・・・・・・・・・・・齋藤 千映美
■ なかまはずれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤田 博
■ おおきくなるっていうことは・・・・・・・・・・・・・・高橋 里美
■ 「ともだち」の大切さを考えさせてくれるこの一冊・・・・小野寺 惠子
■ 新刊紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤田 博
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■ 「その本」と出合うとき

齋藤 千映美

 今月、小学校三年生の息子が交通事故で入院すると、間もなく、友達のお母様(幼稚園の園長先生)が病院にお見舞いに来て、本を貸してくれました。まんがを持ってきてくれる友達が多い中、本を読むかなと思っていたら、何日かすると「すごく面白かった」と、長いあらすじを私に語ってくれました。それが、なつかしいプロイスラー『小さい魔女』です。その方が貸してくださるのはこれが初めてではなく、今の息子では読まないのではないかと私が躊躇している本を、いつも、不思議なぐらいとてもいいタイミングで紹介してくれるのです。
まったくのところ、息子に本を薦めるのは、難しくなってきました。

幼いころから本の虫だった私は、息子が小学生となった現在まで、数限りないほどの本に触れてきました。忘れられないすてきな本が次々と、いくらでも、浮かんできます。世界のどこにいても本は私の友達でした。私自身、母親にたくさんの良い本を与えられてきたと記憶しています。そこで本のくれる喜びを息子にも伝えたいと、幼い時からずっと、読み聞かせをしてきました。しかし、なぜでしょう。このごろでは、自分が読んでいた記憶から自信を持って薦めた本でも、「意味がわからない」「字が多すぎる」と言われてしまうのです。個体差なのか、時代差なのか、性差なのかと、首をかしげるばかりです。
・・・思い返してみれば、私自身、母親に与えられて何年かもてあましていた(が、やがて夢中になった)「本」はいくらでもありました。当たり前のことですが、子どもにはそれぞれ、その本と出合う“時期”と“出会い”があって、そればかりは親に仕掛けられるものではない、いやむしろ、親の意見を敬遠しているものかもしれないのです。
ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』は、講談社、偕成社などから出版されている児童文学の古典です。有名なのに、読んだことのある大人が多くない不思議な物語です。悪辣ないたずらをして、妖精の手で小人に変えられたニルスが、ガンの群れとともにラプランドへの渡りの旅に出る冒険物語。こう書くとファンタジー小説に思えるかもしれませんが、そうではありません。物語には全編を通じて、スウェーデンの美しく厳しい自然と澄んだ空気が満ちています。自然の営みやそこに生きる動物たちのたくましさが、実に淡々と、愛情一杯に描かれるのです。物語ではあっても、北欧人である著者の自然へのまなざしが大変現実的に映し出されていると言ってよいでしょう。人間も自然の一部として描かれます。感動の最後を読んだとき、読者は何とも言えないカタルシスに包まれ、自然(ファンタジーではなく、リアルな自然)への驚異の念と憧憬を強めるはずです。
打って変って、ノンフィクション(?)のダレル『虫とけものと家族たち』は、残念ながら現在、絶版になっていますが、今でも図書館で読める名作です。イギリス人の少年ジェリー(著者)が、家族と一緒にキプロスに移り住み、穏やかな気候と暖かい住民のまなざしに包まれて、動物少年として立派に(!?)成長していく姿をユーモアたっぷりに描いた半自伝です。少年がキプロスの生きものと人々に注ぐ好奇心と愛情がまっすぐに伝わってくるだけでなく、エキセントリックで才能豊かな家族たちの毎回巻き起こす騒ぎが、全編、笑いの神経を刺激します。ダレルは後に、野生動物保全の活動で有名な「ジャージー動物園」を設立し、同様に楽しいたくさんの本(一部は日本語で読めます)も著しました。
自分のその後に影響を与えたかもしれない2冊を思い出してみましたが、考えてみると、どちらも親に与えられて読んだものではなく、姉と母の本棚から、小学生だった私がそっと抜きとって読んだものでした。何度となく背表紙を目にしていて、ある日ついにそこから取り出したのです。そうやって、自らの意思で選んだ本との出合いが、自分の心をさらに動かしたのかもしれません。それが、「その本」の読まれるべきちょうどよいときだったのではないでしょうか。
 ※「小さい魔女」オトフリート・プロイスラー作/大塚勇三訳/学習研究社

(環境教育実践研究センター)


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