■ 生きる悲しみを教えてくれるこの一冊
北川幸比古・大倉雅恵編/新美南吉『でんでんむしのかなしみ:いのちのかなしみ・詩童話集』(日本短波放送)
柴崎 満理奈
ある日、でんでんむしは自分が背負っている悲しみに気付きます。「わたしは いままで うっかりして いたけれど、わたしの せなかの からの なかには、かなしみがいっぱい つまって いるでは ないか。」
でんでんむしは友達に悲しみを打ち明けます。「わたしは なんと いう、ふしあわせな ものでしょう。わたしの せなかの からの なかには かなしみが いっぱい つまって いるのです。」
すると、友達は言いました。「あなたばかりでは ありません。わたしの せなかにも、かなしみは いっぱいです。」
それなら仕方がない、とでんでんむしは、別の友達に会いに行きます。ですが、どの友達を訪ねても皆、同じことを言うのでした。
でんでんむしはようやく気付きました。「かなしみは だれでも もって いるのだ。わたしばかりではないのだ。わたしは わたしの かなしみを こらえて いかなきゃ ならない。」
でんでんむしのように、「殻」に詰った悲しみは外からは見えないものです。誰かが量ることもできません。だからこそ、人は、どうして「私だけ」がと自分の不幸を嘆くのです。しかし、誰もが悲しみを持ち、悲しみを背負って生きているのです。それを知ったでんでんむしは、悲しみに堪えて生きる決意をします。
この物語を読んだ時、生きる悲しみと同時に「強さ」を感じました。生きることは楽しくもあれば、辛くもあります。自分だけが辛いと、殻に籠ってしまいたくなる時もあるに違いありません。ですが、その悲しみを受け入れる「強さ」がなければ生きてはいけません。
「生きる」とは何か。この本を手に取る度に、私はでんでんむしと自分を重ね合わせ、その答えを探すのです。
(特別支援教育教員養成課程発達障害教育コース3年)