〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.14 2010年1月号
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■ なわとびをする

藤田  博 

 上がっては下りるなわとびのなわ、一本のなわが輪の形に空間を切り取ります。「花環が圓を描くとそのなかに富士がはいる。その度に富士は近づき。とおくに坐る。」草野心平がその輪に入る富士山を詠ったのは、輪の中につくられる別の世界を意識したからに違いありません。
山の雪が解け、春の風が吹き始めます。冬の間、眠っていた母グマと子グマが目を覚まします。その子グマの耳に、子どもたちが歌う「くまさん くまさん」のなわとび唄が聞こえてくるのです。小野かおる作『くまさん くまさん おはいんなさい』(福音館書店)の始まりです。誘われるようにクマは山を駆け下りていきます。「ぼくも いーれーて。」なわとびのなわに子グマが入ることができるのは、なわとびが水平の世界をつくり出し、出会いの空間をつくり出しているからです。それが時間の経つのを忘れてしまう遊びの世界と一つなのは言うまでもありません。「あっ おかあさんの こえだ。ぼく かえらなくちゃ。」子グマが子どもたちとなわとびをした、子どもたちが子グマとなわとびをした、それは夢だったのでしょうか。「くまさん くまさん おはいんなさい」、そう口ずさみながら子グマは眠っています。とすれば、すべては眠る子グマの見た夢だったのかもしれないのです。 
あまんきみこ文・南塚直子絵『海うさぎのきた日』(小峰書店)の「わたし」は、なわとびのできない女の子です。「おおなみ、こなみ ぐるっとまわって ねーこの目」、弟はうまくそれに合わせ、「くるくるまわるひもの中で、ぴかぴかわらいながら、うさぎみたいにとんでいる」のです。
繰り返される「おおなみ、こなみ」の唄に誘われるように、海を見たくなった「わたし」は、深呼吸を三回して、坂道を下りていきます。砂浜でなわとびをしているうさぎが目に入ります。「ぼくたち、見えますか?」「ぼくたちの声もきこえますか?」うさぎの姿が見えるのは、うさぎの声が聞こえるのは、「わたし」が向こう側の世界に入ったからに違いありません。一匹だけ、元気のないうさぎがいます。なわとびのできないそのうさぎと自分が重なります。そのとき誰かが「わたし」の手をにぎってくれます。なわとびのできない「わたし」は、なわとびのできないうさぎに促されるようにして輪に入るのです。回る輪の中に入るそこでは、輪であること、円いということが重要です。その円い輪の中でのことのすべてが、とべない「わたし」、とびたい「わたし」の見た夢なのかもしれません。
エリナー・ファージョン文・シャーロット・ヴォーク絵『エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする』(岩波書店)は、「生まれながらのなわとび上手」エルシー・ピドックの物語です。
エルシーの評判はどの村にも届きます。ケーバーン山の妖精さえ、その名を聞きつけたほどです。「ひと月に一度、三日月の晩、ケーバーン山にくるがよい。」妖精のアンディ・スパンディは、エルシーに新しいとび方を教えます。ケーバーン山で行われたなわとび競争で、エルシーは眠ったままにとびます。「高とび、するりとび、二度ぐるりぐるりとび 早とび おさめとび おそとび 爪先とび 長とび 強とび 軽とび」、妖精たちが疲れ果てとべなくなっても、エルシーはとびつづけるのです。つなが短くなってしまったエルシーは、長いつなを使ってとぶようになります。三日月の晩、ケーバーン山で村人全員がなわとびをしたことが思い出話に、思い出話が昔話に、昔話が伝説へと変わっていきます。いつからそうなったのか、どうして三日月の晩なのかわからなくなっていくのです。ある日、領主がケーバーン山を出入り禁止にします。それに対抗してエルシーが、村のなわとび上手エレンを介して出した条件は、「これまでに、そこでなわとびをしたかぎりのものは、ひとり残らず、もう一度、三日月の晩、順番になわとびをさせるように。」というものでした。最後に109才のエルシーその人が登場します。「小さい老女」が手にしているのは、伝説となったあの短いつなです。「あのひと、眠ってとんでる!」、とびつづけるエルシーが領主の思惑を打ち砕きます。すべては、眠りながらなわとびをするエルシーの見た夢だったのでしょうか。それとも、こうあればいいとの思いを抱いて、人々が見た夢だったのでしょうか。エルシーは伝説の中、いまもとんでいる、とびつづけているのです。
 

 
※「くまさん くまさん おはいんなさい」小野かおる作/福音館書店
※「海うさぎのきた日」あまんきみこ文・南塚直子絵/小峰書店
※「エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする」エリナー・ファージョン作・シャーロット・ヴォーク絵・石井桃子訳/岩波書店               

(英語教育講座)


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