■ 「さかなはさかな」、何とも重みのある言葉です
鵜殿 義雅
レオ・レオニ。その名前を聞いて思い浮かべるのは、あの『スイミー』の作者だということでしょう。一人ぼっちになったスイミーが大海原を冒険、新たな仲間たちと出会い、勇気と知恵を振り絞って大きな魚を追い払う物語は、小学校2年生の国語の教科書に採用されています。学芸会2年生の劇として定番となっていることもうなずけます。
ここで紹介するのは、そのレオ・レオニ作の『さかなはさかな』です。同じ作者で、主人公も小魚。この物語も、ファンタジーあふれる海の中の世界で、小魚が痛快な冒険活劇を繰り広げる…、そんな予想をしてしまいます。でも、そこはちょっとだけ違うのです。
森の外れの池に住んでいる「こざかな」(「スイミー」のような名前はありません)は、おたまじゃくしとお友達。いつも二人で仲良く遊び、語り合っていました。でも、やがておたまじゃくしには足が生え、かえるとなって外の世界(陸地)に旅立って行きます。この物語でも、一人ぼっちになってしまうこざかな。ですが、こざかなの冒険はすぐには始まりません。こざかなは、寂しさを感じながら日々を過ごしたのち、やがて体も立派な「さかな」へと成長していきます。そんなある日、かえるが池の中へ里帰り。そして外の世界で見てきたことをたくさん話してくれるのです。
カラフルな羽で大空を飛びまわる鳥、まだら模様で角が生えた牛、きれいに着飾った男や女の別がある人間。ずっと池の中で過ごしてきたさかなには、どれも簡単には想像がつきません。あれやこれやと思いをめぐらせた姿は、本の中の絵として登場します。レオニが描いたさかなの想像の世界を、皆さんにも是非見てもらいたいと思います。単に面白いだけのものとは違います。私たち人間には、科学によって知り得たことは増えましたが、想像の世界は無限に広がっています。見たことがないものを想像する時の心は美しい。それを単に面白おかしいものとして笑うのはいかがなものでしょうか。それぞれの人が想像をめぐらせ、自由に思いをはせ、その想像や思いを語り合うのは素晴らしいことです。
さかなの好奇心はもう止めることができません。「かえるが見た世界を、自分の目で確かめたい!!」。ついには、思い切って岸へ飛び上がるのです。レオニの得意とする大胆な展開に期待しつつも、この先どうなるのかという不安。私は大人になってからこの本を読みましたが、手に汗握って次のページを開きました。しかし、結局のところ、『スイミー』のようなハッピーエンドではありませんでした。
「さかなはさかな」
その後、池に戻ることができたさかなに投げかけた、かえるの言葉です。さかなの悲哀を嘆きつつも、さかなの世界(水中)の素晴らしさを教えてくれたのです。
違う世界に対する憧れ、背伸びしてみたいと思う気持ち。子どもなら誰しもがもっている気持ちです。教師として、子どもたちのチャレンジを応援したい。「分をわきまえろ」などとは言いません。最後に、かえるのように言いたいのです。
「あなたが今いるこの場所も、なかなか捨てたものじゃないよ。いいところだよ。」と。
※「さかなはさかな かえるのまねしたさかなのはなし」
レオ・レオニ作・絵/谷川俊太郎訳/好学社
(附属特別支援学校教諭)