〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.13 2009年11月号
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■ ひっくり返しの意味を考えさせてくれるこの一冊

トミー・アンゲラー・作/今江祥智・訳『すてきな三にんぐみ』(偕成社)

星山 藍

黒いマントに黒い帽子、帽子の下からはギロリと覗く鋭い目。手にはギラリと赤く光る大まさかり。「この さんにんぐみに であったら、ごふじんは きを うしない、しっかりものでも きもを つぶし、いぬなんか いちもくさん……。」
 「こわい」三人組は、金持ちを狙っては宝を取り上げ、隠れ家にため込んでいました。ある日、三人組がいつものように馬車を襲うと、中には宝物ではなく、孤児の女の子ティファニーちゃんが。連れて帰ると、宝の山を見たティファニーちゃんが、「まぁあ、これ どうするの?」これまではどうするつもりもなかった三人・・・これから「どうするの?」
 三人組の三角にティファニーちゃんが加わることで、四角になりました。一つ二つと増えていくその角は、やがて鋭い角が和らいで、誰をも包み込む滑らかな円へと形を変えるのです。三人だけでは気付くことのなかった発見です。人生は時に180度方向を変えることがあります。「こわーいどろぼうさま」三人組は「すてきな」ことを始めたのです。
読み終わった後、「こわい」三人組が急に変わった印象を受けますが、「人が好き」な優しい心は三人組の中に元々あったものなのではないでしょうか。決して誰も傷つけず、盗んだ宝にもまったく手を付けていなかったのですから。馬車を襲ったのは、人と関わりたい気持ちの表れだったとも考えられるのです。こんな三人組をあなたも「すてきな」三人組と思ってしまうはずです。
 

(国際文化専攻4年)


■ 新刊紹介

安房直子・作/こみねゆら・絵『くまの楽器店』(小学館)

「ふしぎや」は野原の真ん中、大きなニレの木の下にあります。緑のベレー帽をかぶったくまが店主です。最初にやって来たのは、雨でびしょぬれになった男の子。くまは、「くるのを待ってましたよ」と声をかけます。梅の実三つを差し出し、男の子はトランペットを買い求めます。トランペットを吹きながら野原の一本道を歩いていくと、雲が動き、晴れ間がのぞき始めるのです。
ぶどう園のおじさんが、月明かりに照らされた野原の一本道をやって来ます。ぶどうが甘くならないのが心配なのです。「ぶどうはね、音楽がたりないと、すっぱくなるんですよ」、そう言ってくまはハーモニカを差し出します。すっぱいぶどうが甘くなるハーモニカです。甘くなったぶどうを持っておじさんがお礼にやって来ます。
レストランと間違えてやって来たのは、腹をすかせたねずみです。「そんなもの、いらないわ」、くまが差し出すカスタネットにねずみが怒ります。「くりか、くるみか、どんぐりか、それとも、いちじく、ほういほい」、そう言ってくまがカスタネットを叩くと、くるみの実が落ちてきます。ねずみはそのカスタネットを50円で買い求めます。
セーターの上にオーバー、手ぶくろにえりまきをして、「あったかくなるいい方法」を探しに来たうさぎへのお奨めは太鼓です。「五百円にしときましょう。」太鼓を叩くと、「顔にあったかい風が、ふうっとかかって」、「春の野原で、でんぐり返しを十も二十もしたみたい」な気持ちになってきたのです。
梅の実三つのトランペット、50円のカスタネット、すべてが売値とものの価値とが不釣合いの不等価交換、それが行われるのが「ふしぎや」です。野原の真ん中にある「ふしぎや」へと通じる一本道は、「ふしぎや」につながると同時に、不思議な楽器がつくり出す不思議な世界へとつながっていたのです。おじさんからねずみ、うさぎへと、冬がそこまでやって来ているのがわかります。「ふしぎや」にやって来たお客さんのあたたかくなる心は、冬眠へと向かうくまの心、長い冬の向こうの春を待つくまの思いが、「ふしぎや」の不思議をつくり出しているのかもしれません。 

(藤田 博)


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