■ 「北のはし」の少女が教えてくれるラップランドの日常
菅原 敏
主人公のマリット・インガは、ラップランドの民「サーメ」(「北のはし」を意味する)の村に生きる少女です。ラップランドの厳しくも美しい大自然と、トナカイとともに生きるサーメの日常が、マリット・インガの目を通して綴られています。
どの絵もとても美しく描かれていることがまず目を引きます。サーメ特有の色彩で飾られた服や日用品が鮮やかに描かれ、壮大な雪原やトナカイの群れとのコントラストが見事です。様々な異文化に接し、サーメの人々とも7ヶ月間暮らしたという、作者ならではの感性が絵に現れているように思われます。その中でも私が一番好きなシーンは、主人公の家族が、果ても知れぬ大雪原の中を、星空の下、そりに乗って移動しているところです。
「ちへいせんの ちかくで ほしが またたいています。たかいそらから にじいろの うつくしい ひかりが おりてきて、あたしのかおを なでるように やさしくゆれました。オーロラです。ふゆのよぞらの おくりものです。ゆきが ばらいろにかがやきました。」
あたたかいふとんにくるまって、そりに揺られながら見るオーロラの風景が、この子の日常なのだと考えると、単に羨ましいということ以上に、様々なことを考えさせられます。
生活の風景では、サーメの人々の営みが、如何にトナカイと密接に関わっているかを丁寧に描写しています。
「きょう とうさんが トナカイを一とう つぶしました。にくは もちろん かわも ないぞうも だいじです。すてるところなんか ありません。」
「かあさんは 子どもトナカイの耳に、ナイフで あたしのしるしを つけてくれました。あたしは まだ五さいですが、たんじょうびのたびに トナカイをもらうので、としのかずだけトナカイをもっています。」
大人の私たちも含め、いまや私たちは、家畜を食用にと畜する現場を目にすることはありません。マリット・インガは、幼いころから自分のトナカイを持ち、大切に育て、しかしそれが単にかわいいペットではないことを知っていくのでしょう。そのすねの皮から自分の靴がつくられ、毛皮からズボンがつくられていくのです。肉はおいしいシチューとなり、脳みそもパンケーキになるのです。自分の命がトナカイによって支えられていることを知っているのでしょう。
都会に生まれ育った子どもたちにこそ、ぜひ読んでもらいたい本です。こんな暮らしがあるんだと、きっと親子で驚きながら楽しむことができると思います。
※ 「ゆきとトナカイのうた」ボディル・ハグブリンク・作・絵/山内清子訳/ポプラ社
(理科教育講座)