〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.13 2009年11月号
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■ 私にとって大切な絵本

小松 惠子

 私にとって特に大切な絵本が2冊あります。
1冊目は、幼い頃読んでもらい、今でも心の奥底にある、中川季枝子・作/大村百合子・絵『そらいろのたね』(福音館書店)です。
主人公のゆうじくんが楽しそうに飛行機で遊んでいると、きつねがやってきて、そらいろのたねと取り替えてほしいと交渉します。ゆうじくんは、きつねとの交渉に応じ、そらいろのたねを家の庭に植え、大切に育てます。
すると、そらいろのたねからは家が成り、日に日に大きくなり出したのです。ゆうじくんは、ともだちや森の動物たちをそらいろのたねの家に招き、楽しく遊ぶことができました。そこへ、きつねがやってきて、飛行機は返すからそらいらのたねの家も返してほしいと言いました。そして、家の中で遊んでいた多くの仲間を外に追い出し、すべての窓を閉めてしまいます。すると、生長を続けている家は、ますます大きく膨れあがり、ついには爆発し壊れてしまったのです。目をまわしたきつねが、倒れている場面で終わりとなります。
私の心の中にいつまでも残っている理由は、相反する生き方が描かれているからだと思います。どんなことも前向きに受け止め、努力を惜しまず対応するゆうじくんの姿と、どんな時も自分中心に行動するきつねの姿です。気ままなきつねに振り回されているように見えるゆうじくんですが、結果的には常に幸福感を持って生きているのです。気ままなきつねは、幸せそうに見えて実は心を満たす術を知らないのです。
2冊目は、子育てをしながら出会った、谷川俊太郎・作/和田誠・絵『あな』(福音館書店)です。
主人公のひろしくんがシャベルで庭にあなを掘る話です。もくもくと掘る姿を家族やともだちが見て、簡単な言葉をかけるだけの絵本です。絵本いっぱいに地面の中の様子を描くことで、掘っている様子が分かりやすく、おもしろいものになっています。ページをめくる毎に少しずつあなは深くなります。いもむしがやってくる場面もあります。視覚的にも魅力的なのですが、私が惹かれた理由は、最後のページでした。ひろしくんは深く掘ったあなの中に座り、あなの壁のシャベルの跡にさわってみたり、土の匂いを嗅いでみたりします。そして、最後に空を見上げるのです。あなから出た後、最後のページをめくると始めのページと同じになっています。あなを埋め、もとに戻した状態になっているのです。
大人になって出会った衝撃的な絵本でした。人生そのものを表しているようだと感じたのです。掘る前と掘った(埋め直した)後、何も変わっていないのはなぜなのかという疑問に見事に答えを出してくれたのです。シャベルの跡をさわってみて感じたこと、土のいい匂い、見上げた空の青さ、そしてやり遂げた充実感、すべてが生きる姿だと思います。なぜ、死んでいくのがわかっていて生きるのか。この絵本から、生きるとは、生きる過程を生きることなのだと改めて教えられたのです。それからは、今まで以上に、結果ではなく、過程を大切に生きようと考えました。
学校教育でこの2冊を利用しています。
『そらいろのたね』は、家庭科教育において、保育学習でこころの発達を題材としている時です。こころは、ことばと社会性と情緒の発達で豊かになることを教えるのですが、情緒を感情的に体験させる目的で読んで聞かせます。読み終わった時の、何とも言えない間を大切にしています。『あな』は、特に3年生の進路学習の時、どう生きることが大切なのか、高校受験をどう理解し、乗り越えるのかなどを考えさせる場面で利用しています。これからも、多くの絵本に触れ、多くのことを教えてもらおうと思います。
※「そらいろのたね」中川季枝子・作/大村百合子・絵/福音館書店
※「あな」谷川俊太郎・作/和田誠・絵/福音館書店

                           

(附属中学校教諭)



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