〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.12 2009年9月号
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■ 無償の愛について教えてくれるこの一冊

浜田廣介・作/いもとようこ・絵『ないた赤おに』(金の星社)

畠山 美緒


 この作品は、童話絵本の中でも多くの人に読まれ、知られているものの一つです。浜田廣介の代表作が、ぬくもりの伝わるいもとようこのイラストで、大人になっても忘れたくない物語として描かれています。
 心優しい赤鬼には人間と仲良くなりたい夢がありました。友達の青鬼は、その願いを叶えるべく、自らを犠牲にして、赤鬼が怖い鬼でないことを村人たちに証明します。そのおかげで、赤鬼は人間の友達をたくさん作ることができました。しかし、赤鬼の願いが叶ったその後、青鬼の姿は見えなくなってしまいます。赤鬼と人間との関係を壊したくないと思った青鬼は、赤鬼の幸せを願いながら、赤鬼の前から姿を消してしまったのです。
 青鬼のその行動は、赤鬼の目にはどう映ったのでしょうか。人間と仲良くなることと引き換えに青鬼を失ってしまった赤鬼は、青鬼が残した手紙を読んで涙を流して泣き続けます。青鬼がいなくなってしまった悲しみ、寂しさ、青鬼の思いやりの深さへの感謝、さまざまな気持ちを感じ取ることができます。
 絵本の最後は、青鬼の手紙を握り締めて立ち尽くす赤鬼の姿で終わっています。私にはその姿が、どうして何も言わずにいなくなってしまったのだとの悲しみに浸っているようにも、優しさへの感謝の気持ちでいっぱいになっているようにも見えました。青鬼の無償の愛の尊さが、赤鬼の涙を通して読者の心にしみ込んできます。赤鬼の流す涙は、青鬼がいなくなってしまった寂しさよりも、自分を思ってくれていたことがひしひしと伝わってきたからのものと感じました。見返りを求めず、相手のためだけに行動した青鬼の無償の愛は、いつの時代も読み手の心を温かくしてくれるように思うのです。

(技術教育専攻4年)


■ 新刊紹介

チャン・チョルムン文/ユン・ミスク絵/かみやにじ訳『ふしぎなしろねずみ』(岩波書店)

 
 「あめが しとしと ふるひのことでした。おじいさんは すやすや ひるね、おばあさんは そばで ぬいものをしていました。」おじいさんの鼻の穴を白いねずみが出たり入ったりしています。そのねずみは「しきいを ひょいと こえて」外へ出ていくものの、水たまりを前に立ち往生。おばあさんが、縫いものに使う物差しを水たまりに置いて通してやります。「しろねずみは おばあさんを ちらっと みあげると、ものさしを ちょこちょこ わたっていきました。」雨が降っているのがねずみにわからなかったはずはありません。おばあさんを試すために出ていった、雨だからこそ出ていったのです。ものを測る物差しが、おばあさんの心根を測ったとは言えないでしょうか。
 「おじいさんは まだ ねていました。おばあさんは また ぬいものを はじめました。」ねずみは「しきいを ひょいと こえて もどってきました。」おじいさんの鼻の穴に戻ったねずみは、おじいさんのことばを借り、金の入った壺のありかを語ります。ねずみの後をついていったおばあさんには、それがどこなのかすぐにわかりました。「おじいさん、そこへ いきましょう。」おじいさんが見た夢の形をとることから、おじいさんの「手柄話」に見えていて、実はおばあさんの「手柄話」になっているのがわかります。幸せに暮らすおじいさんとおばあさんを伝える最後のページで、おばあさんはまた縫いものをしています。そのおばあさんの鼻の中にねずみがいるのです。縫いものに欠かすことのできない物差しには、北斗七星が描かれています。この北斗七星がおばあさんの「幸運」を指し示してくれたのかもしれません。
 これは韓国の昔話「魂(たま)ねずみ」の絵本版です。ねずみが授けてくれる宝物ということから、「ねずみ浄土」との比較が可能です。転がるおむすびの後を追ってねずみの穴に入ったおじいさん、「おむすびころりん」の昔話です。「魂ねずみ」では、おじいさんがねずみの穴を訪ねる形になっていない、加えて「隣の爺型」になっていないのがわかります。夢に見たものが正夢になることからは、「味噌買い橋」との比較が可能になります。「魂ねずみ」では、おばあさんを道案内するのも、おじいさんの口を借りて語るのもねずみです。行って帰るのはねずみ、中心はねずみということです。鼻の穴に宿るねずみ、「魂ねずみ」として語られる所以です。

(藤田 博)


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