〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.11 2009年7月号 PDF版はこちら
バックナンバーはこちら

■ 「きたないもの」ってどんなもの?・・・・・・・・・・・菅原 正則
■ いすが動いた・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤田 博
■ ティラノサウルスの「こころ」・・・・・・・・・・・・・遠藤 奈保子
■ 大切なものの存在に気づかせてくれるこの一冊・・・・・・菱川 真理子
■ 新刊紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤田 博
[ 1 | 234 ]

■ 「きたないもの」ってどんなもの?

菅原 正則

 ゲロ、鼻くそ、ウンチ、ゲリ、おしっこ、つば、鼻水、耳くそ、ニキビ、水ぶくれ、ふけ、かさぶた、目やに、歯くそ、おなら、げっぷ、あせのにおい、口のにおい、くさい足。いきなりこんな言葉を矢継ぎ早に目にして、不愉快な思いをされた御仁もおられると思いますが、これらはここで紹介する『きみのからだのきたないもの学』という絵本の目次です。これらは、ぬるぬるべたべたしていたり、茶色や黄色や緑やどす黒い赤だったり、猛烈に臭かったりするので、ふだん忌み嫌われるものばかりです。あるいは、「下ネタ」として茶化す対象にしてしまうこともあります

 この本では、このようないわゆる「きたないもの」を、人ならば誰の体からも生じるものとして、小学生くらいなら分かる平易な言葉で科学的に解説しています。しかもその具体的な成分や体の中での役割をあげながら、どちらかといえば好意を持って書き記されているので、読み進めるうちに、これまで闇雲にそれらを排除していた私たちの日常感覚が変わるような気がしました。例えば、体から出たばかりの健康なおしっこには細菌が含まれていなくて「きれい」だということを訳者はあげています。私自身は汗っかきなので、思春期の頃から汗くさくなりたくないばかりに、どうしたら汗をかかなくて済むかと悩んだ時期もありましたが、汗そのものが臭うのではないことや、汗をかくことの大切さがこの本で改めて確認できました。
 私は日頃、建物をめぐる熱や空気、エネルギーについて興味関心を持ち研究を進めていますが、それら物質やエネルギーの流れを追いかけてゆくと建物周辺の人体やそれよりもスケールの小さいもの(微量物質、微生物、微気象)、そしてスケールの大きいもの(地域社会・気候風土、そして地球環境)にまで意識が及びます。ただこの中で地球だけは特別な存在といえます。それは現代の文明レベルにおいて、地球は物質的に完結しているからです。人体や建物などはその環境を維持するために必要なもの(資源)を摂取し、不要なもの(廃棄物)を放出することができるのに対し、地球だけはそれができないからです。このことから、地球内では物質循環を淀みなくする(廃棄物を再生処理して資源化する)のがとても重要であり、そのために最近では廃棄物もできる限り分別回収される訳です。一昔前はすべて「ゴミ」と呼び、得体の知れない、何の役にも立たない、もしかすると害をもたらすかも知れないとされていたものを、分別し正体を明らかにすることによって資源性が生じるのです。このことは、「きたないもの」にも当てはまりそうです。「きたないもの」を「汚物」と思っているうちは、顔を近づけて見たり、におったり、触ったりするには心理的に抵抗があり、たいていはチリ紙で拭いてまるめてさっさとゴミ箱やトイレに捨ててしまうでしょう。でも「きたないもの学」の対象となれば、よく観察して正体を知り、もしかすると何かに利用できるかも(かの時代におしっこで洗濯をしたように)と考えを巡らせるようになるかも知れません。
 子供たちは、片言しか話せないうちから、「きたないもの」の言葉やそれが指すものをいち早く覚え、遊びにしてしまいます。赤ちゃんなら正常にウンチやげっぷをするとむしろ褒められます。この本をわが子たちに見せたところ、絵のおもしろさも手伝って大盛り上がりで、しまいには最も気持ち悪くて見るのも嫌な(と言いながら一番興味をそそる)絵のページを持って、互いに追いかけ回すはめになりました。こういう姿を見ると、「きたないもの」への偏見を無くすのはそう難しくないように思えます。
 個人的には、お父さんたちの悩みのタネである水虫、タン、加齢臭、いびき(?)を題材にした第二弾の刊行を待望する次第です。

 ※「きみのからだのきたないもの学」シルビア・ブランゼイ・文/ジャック・キーリ・絵/藤田紘一郎・訳/講談社

(家庭科教育講座)


[ 1 | 234 ]
図書館のホームページに戻る バックナンバー
Copyright(C) Miyagi University of Education Library 2008