〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.10 2009年5月号
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■ 生きることの意味を考えさせてくれるこの一冊

レオ・バスカーリア・作/島田光雄・絵/みらいなな・訳『葉っぱのフレディ−いのちの旅−』(童話屋)

牧野 七恵


 「死」は、すべての生きものにやってきます。生まれて、死んでゆく。それは何十億年も前から繰り返されてきた、当たり前のことです。しかし、自分や家族、愛する人が死んでしまったら。そう考えたとき、恐怖や不安を感じずにはいられません。『葉っぱのフレディ――いのちの旅――』は、「死」に対するそうしたネガティブなイメージに穏やかな光を与え、生きることの意味を考えさせてくれます。
 フレディは、一本の大きな木の枝に生まれた葉っぱです。同じ木の枝に生まれたたくさんの友だちと、春には風に乗ってくるくる踊り、夏には身を寄せ合って人間に木陰を作り、秋にはきれいに紅葉し、季節の移ろいを感じながら毎日を楽しく過ごしています。
 しかし、やがて冬がやってきます。仲間は次々と風に巻き上げられ、地面に落ちてゆきます。親友のダニエルは、「引っこしをする時がきたんだよ。」とフレディに言います。冬が来れば、葉っぱはひとり残らず木からいなくなるのです。フレディは、ダニエルの言う「引っこし」が「死」を意味することを悟るのです。
木には、フレディとダニエルだけが残ります。「ぼく 死ぬのがこわいよ。」そう訴えるフレディに、ダニエルは「きみは春が夏になるとき こわかったかい? 緑から紅葉するとき こわくなかったろう?…死ぬというのも変わることの一つなのだよ。」と言います。そして、たとえ自分たちは死んでしまっても、「いのち」は変化しながら永遠に生き続けていくのだ、と優しく諭してくれるのです。
 フレディは、自分の一生にはどんな意味があったのだろうかと考えます。「ねえ ダニエル。ぼくは生まれてきてよかったのだろうか。」フレディのこの問いに、ダニエルは深くうなずきます。たった一度ずつしか季節の変化を迎えられなくとも、フレディは満ち足りた気持ちで「死」を迎えます。雪どけ水に混じり、木を育てる力となるのを知ったからです。
 

(社会科教育専攻4年)


■ 新刊紹介

薫くみこ・作/黒井健・絵『赤いポストとはいしゃさん』(ポプラ社)

 
 休みの日でも診てくれる、評判の若い歯医者さんがいます。手紙を書くのを苦手としています。お母さんへの約束の手紙がなかなか書けず、「宿題」を抱えたままになっているのです。その宿題を一緒にやってくれるのは、治療が終わっても帰らず、母親の帰りを診察室で待つ女の子です。ようやく書き上げた手紙をポストに入れ、女の子と手を振って別れると、「あわい ひかりが、ポストにとまって きえました。」その時、りすの声が聞こえてきます。「これはゆめでは ないかしら」、歯医者さんはそう思います。そうかもしれません。赤いポストをりんごとまちがえてかじり、前歯が欠けてしまったりすの子どもを治してやるのは、夢の中でのこととしか考えられないからです。お父さんりすがお礼にとくるみを差し出します。それで足りないのはわかっています。「それなら ぼくの おかあさんに てがみを かいてくれませんか。」歯を治してもらった、その代わりとしての手紙です。女の子とりすの子がパラレルになっているのがわかります。あずかってもらっているお礼、治してもらったお礼、お金の代わりとしての手紙なのです。
 12時になろうとするとき、ポストがやってきます。「さいごの しごとに ふさわしい、すてきな てがみを あずかってきました。」歯医者さんは、ポストの大きな口をのぞき込みます。口の中をのぞくのは歯医者さんの仕事です。「わたしにも むしばが あったら、せんせいの かんじゃに なれたのに」、ポストのそのことばから、女の子とりすの小さな口、ポストの大きな口が結び合っているのが見えてきます。亡き父に宛てたはがきの返事を持ってきてくれたポスト、そのポストに一杯に詰まったなつかしい思い出から覚めた歯医者さんは、ポストが「さいごの しごと」と言っていたことを思い出します。新しい形のものに取り替えられようとしていたのです。動物たちがポストを運びます。以来、待合室にポストが置かれるようになったのです。時々、不思議な足跡が。見えているのは、ポストをはさんで動物とつながっている歯医者さんだけなのかもしれません。
 ポストはつなぐ役目を果たすもの。投函すると遠い人とつながります。そのポストが歯医者さんと動物をつなぎ、現在と過去をつないでいるのです。12時にやってきたのも、境としてのポストだからなのです。

(藤田 博)


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