■ ごきぶりねえさんに拍手!・・・
松井 かおり
まずタイトルにどっきり。でも、イランではよく知られた昔話だそうです。ごきぶりが主人公という絵本との出会いに感動です。その絵は独創的で、ごきぶりねえさんの姿は想像以上に魅力的です。たまねぎの皮で作ったバラ色のワンピース、なすの皮を縫って作ったチャードル(全身を覆う布)、ほそばぐみの皮で作った真っ赤な靴、実物を知らない人だったら、ごきぶりが好きになるかもしれません。そして、日本語訳は小気味よく、どこか懐かしいことばの響きがあり、自然と声にしてみたくなります。
これは、ごきぶりねえさんが旅に出る話。てんとうむし、くも、しじゅうから・・・など、たくさんの出会いと危機の連続です。例えば、くもとの出会いはこうです。
「ごきぶりねえさん どこいくの?」
「ごきぶりねえさん?!ひどすぎる!」
「じゃ、なんと?」
「おじょうさん、あかぐつさん、ヤズド(イラン中部の町)のチャードルさん、道中ごぶじ
に。どこいくの?」
そのくもの網にかかり、丸呑みにされてしまうことをカラスが教えてくれます。「ごきぶりねさん、こわくなって、にげだした・・・」次は誰と出会い、何が起きるのか?読み聞かせにはぴったりの繰り返しです。ごきぶりねえさんの決まり文句、「じぶんで ちゃんと やっていく。どんな くろうも いとわない。ひとに へつらったり しない。」も、あくまで自然体。きっと小さい頃から、それが当然なことと育ってきたのだと想像するのです。
これは自分の居場所を見つける旅のお話。この旅の果てを、子どもたちはどう思うでしょう。大人たちは今の自分の生き方に思いを馳せ、何かしらのメッセージ性を込めて読みたくなるかもしれませんが、ごきぶりねえさんの「旅」をごくごく楽しく、生き生きと伝えられればいいなと思います。子どもたちが大きくなった時、いつか読んであげたい話です。
ごきぶりねえさんは、人にへつらわないように、しっかり仕事して、苦労して、小さくても気持ちのいい家を持つという、子どもの頃からの願いをかなえます。母親を呼び寄せて一緒に暮らすことになった、その旅へと向かわせた「ごきぶりかあさん」のことばです。
わかい おまえが なんにも しないで ぐずぐずしてる、っていうのは ざんねんなこと。
たちあがって 手をうごかしな。じぶん じしんを アピール するのさ。かがみを みがい
て、みじたく するんだ。
小さなごきぶりねえさん、かなりしっかり生きてます。
※「ごきぶりねえさん どこいくの?」M.アーザード・再話/モルテザー・ザーへディ・絵/愛甲恵子・訳/小野明・監修/ブルース・インターアクションズ(1,470円)
(附属特別支援学校教諭)