〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.10 2009年5月号
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■ 手紙が届いた・・・

藤田  博 

 手紙とは、はがきとは、外から届くもの、外へと届けるもの。そうして外の世界とのつながりが生み出されるもの。異界からの招待状の形をとることがあるのはそのためと言えます。一郎に山猫からのはがきが届きます。宮沢賢治「どんぐりと山猫」です。「雪渡り」では、四郎とかん子が小狐から幻燈会への招待状をもらいます。そこには11才以下との条件が付いています。紅葉の葉に書かれ、川を流れてくる手紙は、安房直子「うさぎ座の夜」での、小夜へと届く人形芝居うさぎ座からの招待状です。「これは こどもだけしかゆくことができない」、おばあさんは小夜にそう語ります。異界からの招きに応えることができる心の持ち主は子どもだけ、ということに違いありません。
 筒井頼子作・林明子絵『とん ことり』(福音館書店)では、知らない町へ引っ越してきたかなえのもとへ、「とん ことり」の小さな音とともに「手紙」が届きます。届いた「手紙」はすみれの花束です。「ゆうびんやさんの おとがした」、かなえは走っていき、ドアを開けます。「にわの むこうは、しらない とおりで、しらない ひとが あるいているだけでした。」今度はたんぽぽが3本届きます。「おもての とおりには、やはり、しらない ひとが あるいているだけでした。」母に手を引かれて、初めて買い物に出ます。「しらない まち、しらない いえ、しらない こたち――なにもかも、かなえの しらない ものばかり。」かなえを見ている女の子が、そこにほんの小さく描き込まれています。ページを逆にたどる、たどって探すことでそれがわかるほどに小さくです。「とん ことり」、また手紙が届きます。今度は本物の手紙です。かなえは「なんども なんども、そのてがみを、よみかえしました。」幼稚園に行きます。「あのてがみを くれたこが、どこかに いると いいなと、おもいながら、しらない こたちを ひとりひとり みていました。」ここにも、ものかげからのぞく女の子が描き込まれています。「とん ことり」、今度は折り紙の人形です。「しらない おんなのこが、もんから でていこうとしているのが みえました。」かなえは「まって・・・」と声をかけます。「おんなのこが、ゆっくり ふりむきました。」一挙に世界が広がります。黄一色の花畑の小道を、並んで自転車のペダルをこぐかなえと女の子、二人のはずんだ心が伝わってきます。「とん ことり」は手紙の音、と同時に、かなえの心の扉が開いた音なのです。
 配り終わったはずの郵便やさんのかばんに、薄緑色の封筒が残っています。宛先は、「やまおくむら どんぐりやま さらさらがわ のぼる いっぽんばし わたり しからかばばやし ぬける ぶなの もりの おく おおぶなの き した ごろう さま」です。どれほど遠くとも、届けに行かなければなりません。「さらさらがわなら しってるよ」、道案内役を買って出たかわうそが、バイクの後ろのかごにとび乗ります。「しらかばばやしなら、しってるわ。」道案内のうさぎがとび乗ります。「ぶなの もりなら しってるよ。」りすが乗ります。雪が深くなり、バイクを降りて歩きます。「おおぶなの きは こっちだよ。」道案内してくれたのはきつねです。眠くてたまらないくまに頼まれ、郵便やさんが開いてみると、薄緑色の便箋が。そこには、「はるですよー!」とありました。「ゆうびんでーす!」の声とともに手紙を届ける郵便やさんは、春を届ける郵便やさんでもあったのです。冬眠中のくまに届いたこの手紙は、誰からだったのでしょうか。間瀬なおかた『ゆうびんでーす!』(ひさかたチャイルド)の世界です。
 ディック・ブルーナ文・絵、松岡享子訳『うさこちゃんのてがみ』(福音館書店)は、キャンプにやって来たうさこが、両親に書いた長い手紙からできています。「ここには ちょうちょが たくさんいます。あかいの、しろいの、みどりに きいろ。」「かめも みました。すぐそばで。かこいに はいっているのでは ありません。」うさこは見たこと、聞いたことのすべてを両親に伝えようとします。伝えられるものはごくわずか、伝え切れないもどかしさがこみ上げてきます。それでもよく伝わるのです。両親が想い描くからです。読み返すこともできます。読む度に相手を想う心の輪が広がる、それが手紙なのです。
 
※「とん ことり」筒井頼子・作/林明子・絵/福音館書店
※「ゆうびんでーす」間瀬なおかた・作・絵/ひさかたチャイルド
※「うさこちゃんのてがみ」ディック・ブルーナ文・絵/松岡享子・訳/福音館書店

(英語教育講座)


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