■ 「思い出」について考えさせてくれるこの一冊
竹下文子・作/いせひでこ・絵『むぎわらぼうし』(講談社)横田 裕里
この時間がずっと続けばいいのに、誰もが一度はそう思ったことがあるはずです。しかし、どれほど願っても、時間はせわしなく過ぎ去って行きます。
るるこは、大切な時間が移ろってゆく現実を受け入れられずにいます。もう秋になろうとしているのに、麦わら帽子を脱ぐことができないのです。帽子には、楽しかった夏の時間がたくさん詰まっているからです。お姉さんに「はやく、そんな ぼうし ぬいで。・・・もう あきなのに、なつの ぼうしなんか おかしいわ。」と言われても、るるこは「まだ なつよ。」と頑なに拒み続けます。
幼いるるこにとっては、大好きだった時間が遠くへ行ってしまうのが怖くてたまらないのかもしれません。確かに、宝物のような時間が過ぎ去ってしまうのはとても悲しいことです。だからこそるるこは、「ぼうしを うんと ふかく ひっぱりおろし・・・すっぽり ぼうしの なか」に入ってしまうのです。けれども、私たちは成長するにつれ、そのような時間を「思い出」として心にしまっておくことを覚えます。そして、時々それを取り出して懐かしむことで、悲しみに耐えるのです。るるこのお姉さんは、そのことを知っています。まだそれがわからないるるこは、麦わら帽子を手放したくないと思ってしまうのではないでしょうか。
最後にるるこは麦わら帽子を脱ぎます。「つばの ぬいめが おおきく やぶれて・・・そこから なつは でて いって」しまったのです。「なつは でて いって」も、大切な時間を「思い出」にすることを知ったるるこは、少しだけ大人になったのかもしれません。
(英語教育専攻4年)