■ 図書館にライオンが・・・
渡邊 知子
「図書館」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?たくさんの本と出会える場所。時間を忘れて、本の世界にのめりこめる場所。でも、おしゃべりや飲食はだめという決まりがある、ちょっと堅苦しい場所。私にとって図書館は、ほかの場所とは違う特別な、それでいて不思議な場所といった感じがします。そんな図書館を舞台にした一冊の絵本『としょかんライオン』を紹介します。
ある街の図書館で働くメリウェザーさんは、とっても決まりに厳しい館長さんです。でも、ほんのちょっとの決まりを守ればだれでも受け入れてくれるやさしい館長さんでもあります。そんなメリウェザーさんの図書館に、ある日、大きなライオンがやってきたのです。図書館員のマクビーさんは、大慌てでメリウェザーさんのところへ行き、ライオンが図書館にいることを伝えます。「そのライオンは としょかんのきまりを まもらないんですか?」「いえ、べつに そういうわけでは・・・」「それなら そのままにしておきなさい」ライオンは図書館で子供たちと一緒に過ごしたり、メリウェザーさんのお手伝いをしたりして過ごすようになります。図書館で過ごすからには、図書館の決まりを守らなければならない、たとえそれがライオンでも・・・。メリウェザーさんは、決まりを守ることを、マナーを守ることを教えていきます。ライオンは、メリウェザーさんや子どもたちと過ごすうちに、自分から仕事を見つけること、人の役に立つことをしようとするようになります。ライオンは、メリウェザーさんにとっても、子どもたちにとっても大切な存在になっていくのです。
ところがある日、高い棚から本を取ろうとしてけがをしたメリウェザーさんを助けようと、規則を破って大きな声で吠えてしまったライオンは、図書館へ来られなくなってしまいます。ライオンがいなくなってからの図書館は、いつもとどこか違っていました。メリウェザーさんも子どもたちも元気がありません。そんな様子を見たマクビーさんは、みんなのために何かできないかを一生懸命考えます。そして、雨の中、ライオンを探しに出かけるのです。図書館のまわりや車の下、植え込み、木の上。どんなに探しても、ライオンはいません。あきらめて図書館へ戻ると、びしょぬれになって図書館を眺めているライオンがいたのです。マクビーさんはライオンにそっと伝えます。「としょかんのきまりが かわったんですよ・・・おおごえでほえてはいけない。ただし、ちゃんとしたわけがあるときは べつ。」こうして、ライオンはまた図書館に戻ってきました。
決まりは、きちんと守るもの。この一冊は決まりを守ることを図書館の決まりを通して教えてくれます。しかし、それ以上にこの本が伝えているのは、決まりを守ることは確かに大切なことだけれど、時にはそのことよりももっと大切なことがある、そんなメッセージなのです。
図書館と猛獣のライオンという、何ともいえない組み合わせのこのお話ですが、心温まる物語です。誰でも(ライオンさえも)受け入れる温かく、そして広い心をもったメリウェザーさんや図書館に来る子どもたち。そこへやってきた、お行儀のいいライオン。図書館という場所を通じて、出会いや心の交流の素晴らしさを味わえます。
久しぶりに、図書館にでも行ってみようかな。今度、図書館に行ったら、どんな出会いが待っているかな。そんな気持ちにさせてくれる一冊です。
※「としょかんライオン」ミシェル・ヌードセン・作/ケビン・ホークス・絵/福本友美子訳/岩崎書店
(附属中学校教諭)