■ 初めての・・・
藤田 博
絵本には、「初めて(はじめて)の」をタイトルとして持つものが数多くあります。「はじめてのおつかい」「はじめてのおるすばん」「はじめてのおてつだい」「はじめてのおこづかい」「はじめてのキャンプ」など。タイトルとしてはいなくとも、「はじめての」をテーマとするものも多いのは言うまでもありません。どうしてなのかを問うことは、子どもという存在を考えることと一つです。子どもの毎日は新しいものの発見、驚きの連続です。道草をくうことが小学生の得意技であるのも、見るもの、聞くものがおもしろくて仕方ないからと言えます。最短距離を、最短の時間でと考えて直線を行く大人との違いです。
しみずみちを・作/山本まつ子・絵『はじめてのおるすばん』(岩崎書店)は、三才のみほちゃんが初めての留守番をする話です。「ままが かちりっと どあのかぎを かけると、へやのなかが、きゅうに しーんとしました。」「だいどころの はしらどけいも、「ひとり、ひとり、ひとり、ひとり」と いっているようです。」一人になり、不安の募るみほちゃんのところに郵便やさんが小包を届けにやって来ます。みほちゃんは「そおーっと ぽすとのふたを あげて、そとを のぞいてみました。」つづいて新聞の集金人がやって来ます。「ぽすとのふたが ぎこぎこっと もちあがって、おおきな めだまが ふたつ、のぞきこんだのです。」のぞくみほちゃん、のぞかれるみほちゃんからは、初めて「外」を意識したみほちゃんが伝わってきます。
その「外」から帰ったお母さんが、「みほちゃんを だっこして くれました。」留守番のできた「みほちゃんは とくいです。」郵便やさんが入れていき、みほちゃんがごみ箱に捨ててしまった紙を拾い上げながら、お母さんが言います、「いなかの おばあちゃんから、くり、おくりましたって、おてがみ きたでしょ。こづつみは あのくりよ。」おばあちゃんの小包が届くのも「外」から、それを知ることでみほちゃんは一歩成長するのです。
筒井頼子・作/林 明子・絵『はじめてのおつかい』(福音館書店)では、五才のみいちゃんが初めてのおつかいに出ることになります。台所でやかんが、なべが沸騰しています。赤ちゃんが泣いています。手の放せないお母さんから頼まれて、みいちゃんは牛乳を買いに出ます。「はじめてのおつかい」です。目線が低いところに置かれていることによって、先を見通すことができないみいちゃんの不安な思いが伝わってきます。目指す店は坂の上、なおのこと見通すことができません。途中、転んでしまったみいちゃんは、大事ににぎっていたお金を落としてしまいます。転がったお金のすぐ脇には下水道のふたの隙間が。「ほら、そこに落ちているよ」と声をかけてやりたい気持ちに駆られます。
目線が高いところに移され、俯瞰できるページも用意されています。それによって店までの道順をたどることができます。店の名前は「筒井商店」、張り紙にある絵画教室の先生は「はやしあきこ」、「もえないごみは火ようび」などがさりげなく仕掛けられています。それを見つけ出していく楽しみが、周囲のものが見えない、みいちゃんの「はじめてのおつかい」のどきどき感を思い描く助けになっているのです。坂の下まで迎えに来たお母さんと並んで歩く後ろ姿から、「大仕事」をなし遂げたみいちゃんの昂揚感が伝わってきます。後ろ姿である、それだけ余計にそうなのです。
『はじめてのおるすばん』では「外」に行ったのはお母さん、待つのは「内」(家)にいるみほちゃん。『はじめてのおつかい』では、「外」におつかいに行ったのがみいちゃん、待つのが「内」(家)にいるお母さんです。内と外が逆であっても、不安な思いを抱くのは、みほちゃんもみいちゃんも同じ、そして、外に出た母も内で待つ母も同じです。違いがあるとすれば、みほちゃんが三才、みいちゃんが五才ということ。五才のみいちゃんの「はじめてのおつかい」も「はじめてのるすばん」から始まったに違いありません。留守番のできた自信と喜び、その上におつかいの自信と喜びが積み上げられていくのです。
※「はじめてのおるすばん」しみずみちを・作/山本まつ子・絵/岩崎書店
※「はじめてのおつかい」筒井頼子・作/林 明子・絵/絵福音館書店
(英語教育講座)