■ 幼児と大学生に読み聞かせする絵本
荒明 聖
みなさんは幼児に読み聞かせをすることは容易に思い浮かべるでしょうが、大学生に読み聞かせ?と思うでしょうね。私が担当している生活科教材研究法では、小学校低学年<1・2年生>の生活科という教科の特質について、幼児向けの絵本『はなを くんくん』を読み聞かせしながら講義・演習を行っています。もちろん、保育者として幼児の前に立った際にも、冬から春にかけての季節ものとして『はなを くんくん』の読み聞かせを行ってきました。
『はなを くんくん』は、名前のとおり、生き物が嗅覚を働かせて目標物に向かっていくという話です。場所は春間近の雪山。野ネズミ、クマ、カタツムリ、リス、ヤマネズミが冬眠から覚め、春の気配を感じて目標物に向かって走り出すという内容です。大勢の生き物たちが走り出したその先にあったもの、それは、雪の中に咲く花一輪。その花の周りで踊り喜ぶ生き物たちの表情とともに、たった一輪の花を囲んで集まる生き物たちの姿勢が印象的な一冊です。
『はなを くんくん』の特徴は、その体裁にあります。黄色い外装の中に現れるモノクロだけのページ。冬、そして雪山という白黒だけの情景に唯一描かれているエンディングの3色ページ。それは、雪山の白、生き物の黒、その中に現れる黄色い一輪の花です。色もストーリーも実に単純です。単調です。しかし、そのことが『はなを くんくん』を際立たせています。私は、このことがとりわけ気に入っており、幼児にも大学生にも感じ取らせたい部分です。
生活科の授業は、この絵本のように子どもにとって身近で単純な世界(対象としての人、社会、自然)が学習活動のエリアです。学習方法も子どもたち自らの手で考えて試し、試しては考えて活動していきます。今どきの大学生が子どものころに受けてこない教科、出始めのころの社会科+理科÷2の教科ではない、ホンモノの生活科を伝えるうえでも、大学の講義・演習で活用しているのです。幼児と同じように、まばたきを惜しんで見入っている大学生の姿も見物ですよ。そんな絵本が『はなを くんくん』です。
※「はなを くんくん」ルース・クラウス作/マーク・シーモント絵/福音館書店
(宮城教育大学併任講師 附属小学校主任教諭)