〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.8 2009年1月号 PDF版はこちら
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■ 忘れられない遊び、そして友だち・・・・・・・・・・・・出口 竜作
■ 絵本のなかに降る雪は… ・・・・・・・・・・・・・・・藤田 博
■ 幼児と大学生に読み聞かせする絵本・・・・・・・・・・・荒明 聖
■ 優しい気持ちになれるこの一冊・・・・・・・・・・・・・鈴木 友絵
■ 新刊紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤田 博
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■ 忘れられない遊び、そして友だち

出口 竜作

 この絵本と出会ったのは、まったくの偶然でした。宮教大に赴任する前、愛知県岡崎市に住んでいた頃のことです。まだ小さかった長男は、名鉄(名古屋鉄道)の電車が大好きでした。名鉄の車両は赤い色をしています。赤い色がぬられたおもちゃの電車─チビ電─で遊ぶ、楽しそうな子どもたち・・・この表紙が長男向けの絵本を探していた妻の目にとまり、『はしれ!チビ電』は我が家にやってくることになったのでした。
 公園でゴロゴロしているユウキとサトシとカズ。そこに、ユウキの弟のモトキが、ゴミ捨て場からもらってきた台車を引っぱりながら現れます。ユウキの発案で、4人はこの台車とダンボールを使って電車を作ることになりました。ダイちゃんとタクヤとマイちゃんも加わって、電車作りのメンバーは7人に増えます。みんなが次々にアイデアを出し、パンタグラフ、バンパー、窓、ドア、ライトなど、いろいろな部分が作られていきます。最後に赤い色を全体にぬって、チビ電という名前をつけて完成。みんなは飛び上がって喜びました!
 そんな時、サトシが転校してしまうことを知らされます。みんながしょんぼりとしてしまう中、タクヤの思いつきから、チビ電で町の中心部に出かけることになりました。チビ電に乗る人、引っぱる人、押す人、7人は交代で町中を走り回りました。鉄道のガード下をくぐる時は迫力満点。チビ電はものすごい勢いで急な坂道を下っていきます。「さいごは サトシのれよ」「あー いつまでも、こうして ずーっと ずーっと あそんでいたいよなー」・・・夕日の中の帰り道、それぞれの思いを胸に、子どもたちはチビ電とともに家へと戻っていくのでした。
 1997年に第1刷の出た『はしれ!チビ電』は、「昔話」というカテゴリーには入りません。それなのに、この絵本を読むたびに、何ともなつかしい気持ちがしてくるのです。どこにでもある都会の風景。子どもたちのいきいきとした表情。集団での遊び。少々やんちゃな試み。転校していく友だちへの思いやり。これらすべてが、自分自身の子どもの頃の遊びや友だちの記憶と重なり合って、なつかしさを感じるのだと思います。あの頃、子どもたちだけで行って遊んだ池や川や海、山や森、廃屋や線路・・・。楽しかったなあ。
 テレビゲームでばかり遊んでいる子どもを見るたびに、もっと自由な発想で、もっと自由な遊びをしてもらいたいと思うのですが、今の学校・社会にはさまざまな規制があり、子どもだけで行ってはならない場所、やってはならない遊びばかりです。好きなところに行って自由に遊べるのは、テレビゲームの中の世界だけなのかもしれません。このように遊んだ子どもが大人になった時、どのような遊びや友だちが記憶に残るのでしょうか・・・?教員養成大学のスタッフとして、そして小学生の子どもをもつ親として、これから先生となり親となるみなさんには、『はしれ!チビ電』を是非一度読んでもらいたいと思うのです。
 ※「はしれ!チビ電」もろはしせいこう・作/童心社

(理科教育講座)


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