■ 『ともだちや』
野口 和之
「『ともだちや』って?」タイトルを見てまず興味がそそられます。表紙には「ともだちや」の「のぼり」を持ったにこやかなキツネの姿。いったいどんなお話なのでしょう。
「ともだちはいりませんか。さびしいひとはいませんか。ともだちいちじかんひゃくえん。ともだちにじかんにひゃくえん」
とある森に住んでいるキツネは、思い立ってさびしいひとのともだちになるという商売を始めたのです。しかしなかなかうまくいきません。邪魔にされたり相手に気を遣って疲れたり…。そんな時、キツネはオオカミに呼び止められます。
「おい,キツネ」「トランプのあいてをしろ」
そうしてキツネとオオカミはひとしきりトランプを楽しみました。
楽しいひと時も終わりを迎え、キツネが「まだ,おだいをいただいてないのですが・・・」と話し掛けると、オオカミは目をとがらせものすごい形相で怒鳴るのです。
「おだいだって!」「おまえは,ともだちからかねをとるのか!それがほんとうのともだちか!」
本当の友達…きつねはきょとんとしてしまいます。そういえばオオカミは「ともだちや」ではなく、「おい、キツネ」と呼び止めたのでした。
「それじゃ、あしたもきていいの?」「あさってもな、キツネ」
きつねは、もううれしくてうれしくて、飛び跳ねながら家路につくのです。
「ともだちはいりませんか。さびしいひとはいませんか。なんじかんでもただ。まいにちでもただです。」
実は森一番のさびしんぼうだったキツネにやっと友達ができました。本当の友達…それはお金で手に入れるものではないのですね。
キツネとオオカミのやりとりから、本当の友達とは?友達の在り方とは?と自然に気付かせてくれるお話です。このキツネとオオカミのお話はシリーズ化されていますが、いずれの作品も、友達っていいもんだなぁとしみじみ感じさせてくれるものばかりです。
「ともだちはいりませんか。さびしいひとはいませんか。ともだちいちじかんひゃくえん。ともだちにじかんにひゃくえん」
エピソードごとに出てくる「ともだちや」キツネのこの台詞は、リズミカルで覚えやすく、子供たちも大好きです。何度も繰り返し読むうちに、子供たちはキツネの様子をとらえ、そのエピソードごとの言い方を考えながら上手に読もうとします。
「おだいだって?!」見開きいっぱいのオオカミの怒ったこわい顔に、「キャーッ!」と声をあげて子供たちは喜びます。
「それじゃ、あしたもきていいの?」「あさってもな、キツネ」
キツネが本当の友達に出会えたこの瞬間、子供たちはうれしそうに目をキラキラと輝かせるのです。
お話のテンポもよく、起承転結がはっきりしており、飽きさせず最後まで子供たちの集中をかき立て、何度でも読みたくなる,そんな作品です。教師の読み聞かせでも、子供たち自身の朗読や役割読みでも、存分に楽しめます。自然に思いやりの心を育み、社会性を培うことができる、絵本ながらも教材として様々な可能性をもった作品です。
※「ともだちや」内田麟太郎・作/降矢なな・絵/偕成社
(特別支援学校教諭)