■ 多様な表現へと誘ってくれる絵本
田端 健人
このタイトルを聞くと、物語を思い出すよりも、林光さん作曲の同名の合唱曲が響いてくる、という方
もいらっしゃることでしょう。実際私も、この絵本を読んだのは、合唱曲を知ったずっと後でした。幼年時代、
「もりはいきている〜♪」と口ずさみ、続けて、「こおりにとざされた〜♪まつゆきそうだっていきて〜い〜
る〜♪」、と音痴なりに歌いながら、どうして「まつゆきそう」なのか、首をかしげたものです。
この物語が書かれたのは1943年、今では小学館『世界の名作』全18巻にも収められていますから、「古典的」
名作と呼ぶにふさわしい作品です。ところが、この物語も合唱曲も知らないという幼稚園や小学校の先生方に
何人もお会いし、時代の変化に驚いたことがありました。ちなみに、私が担当している講義「子ども学」で
250名ほどの学生に尋ねたところ、このお話を知っていたのは、わずか20名弱でした。
もう60年以上も昔の作品ですが、環境破壊や地球温暖化が7月の洞爺湖サミットで主要議題とされる今日、
タイトルが象徴するように、この童話は、きわめて現代的な問題に関わっています。実はこのタイトル、最初の邦訳者、
湯浅芳子さんが付けたものなのです。原題は、「12月(Dvenatzatchi meshatzev)」なのだそうですが、これを直訳すると魅力がなくなってしまうので、改題したのだそうです。
60年後に新たな輝きを発する見事な改題です。なお、タイトルの「12月」は、「12がつ」ではなく、「12つき」と読みます。
これは、それぞれの月の自然気候を司る12人の「月の精」にまつわるお話だからです。例えば、老齢な1月の精は、
「わしがいないと、1月らしい きびしい さむさにもならず、風も ふかず、雪も ふらないのだ」、と語ります。
地球温暖化は、1月の精霊がどこかに去ってしまったせいなのかもしれません。
この絵本には、表題の版の他にも、いくつものヴァリエーションがあります。お話を短く読み聞かせたいなら、『12の月たちースラブ民話ー』(評論社)がお薦めです。
小学校高学年には、湯浅さんが訳された『森は生きている』(岩波少年文庫)がよいでしょう。他にも、小学館版の絵本もあり、訳や挿絵の違いも楽しめます。
あえて表題の版を選んだのは、この版だけ、林光さんの幾つもの合唱曲が楽譜付で掲載されているからです。加えて、この版には、「斎藤公子の保育絵本」とシリーズ名が記されています。
斎藤先生は、さくら・さくらんぼ保育園を創設した卓越した保育者ですが、この版には、その園児たちが描いた絵も、掲載されています。
この場面でどうしてこの構図に、この彩色になるのだろう?、と子どもたちが住み込んだお話の世界に思いを寄せるのも、楽しいひと時です。
幼稚園や小学校で、物語の世界に浸りながら、みんなで合唱してみるもよし、心に残った場面を絵にしてみるのも、演劇やオペレッタとして演じてみるのもいいでしょう。
この絵本はとりわけ、子どもたちと先生方を、多様な表現へと誘ってくれる魅力に充ちているのです。
※「森は生きているー12月のものがたりー」マルシャーク作/エリョーミナ絵/青木書店
(学校教育講座)