■ 児童図書の活用で読む力を
今野 ゆき
6年生の国語の授業で立松和平氏の「海のいのち」(6年国語下 東京書籍)の学習を行った。海に生まれた少年太一が、父や恩師の死を乗り越えて、村一番の漁師に成長する姿を描いた作品である。作品の中には「海のめぐみ」「…ここはおまえの海だ。」「…ぼくも海で生きられます。」「とうとう父の海にやってきたのだ。」「大魚はこの海のいのちだと思えた。」
というように、海に関わる叙述が多く用いられている。そのため、それらの叙述から登場人物の海に対する考え方を読み取ることができるようになっている。さらに、海に生まれた少年太一や、太一の憧れであるもぐり漁師である父、太一が弟子入りをした一本釣りの漁師の与吉じいさなどの様々な人物の設定や「海のいのち」という象徴的な題名により、読み手は多様な視点で作品を読み取ることができるようになっている。
そこで、太一の生き方や心情を表現や叙述と関連付けながら読み取る力を身につけさせるとともに、その読み方を用いて他の作品を読む力も高めたいと考え、次のように単元を構成した。
@「海のいのち」の作品の叙述から、登場人物の海に対する考え方を読み取る。
A立松和平氏の同じテーマで描かれた他の作品を読み、各作品について話し合う。
「海のいのち」の作品を通して、登場人物の海に対する考え方を読み取り、「海のいのち」の意味について話しあった後、立松和平氏の「いのちシリーズ」の作品を読む時間を設けた。初めに全員で「山のいのち」を読み、「山のいのちとは何か」を話し合った。その中で、山のいのちについて、「海のいのちと同じく、山に生きる全ての生き物と、その生き物たちが住む山全体も、一つのいのちとして考えているのだと思った。」
「山のいのちとは、山そのものだけでなく、山で生きている動物や植物、人間も含んでいるのではないか。」という意見が出された。子どもたちは、「海のいのち」で学習した時のように、登場人物の発言や題目に着目しながら、登場人物の山に対する考え方や「山のいのち」の意味について話し合うことができた。
その次の時間には、立松和平氏の「川のいのち」「田んぼのいのち」「街のいのち」を紹介し、個人で関心のある作品を読んで、あらすじとその題名の意味についてポスターにまとめる活動を行った。子どもたちは、これまで学習してきたとおり、登場人物の発言や題名に着目して読み取りを行い、ポスターにまとめることができた。
小学6年生になると、読書の時間には、長編の作品を読む子どもが多く、絵本仕立ての作品を読む子どもはあまり見られない。しかし、同じテーマで描かれた作品を用いて学習したことで、子どもたちは新鮮味を感じながら、教科書の中で学んだ作品の読み方を絵本仕立ての作品でも用いたようであった。
※「海のいのち」立松和平作/伊勢英子絵/ポプラ社
(附属小学校教諭)