■ お気に入りの一冊
馬場のぼる『11ぴきのねこ』(こぐま社)小幡 友里恵
「あっ、さかなが おちている。」「さかなだ さかなだ。」ニャゴ ニャゴ ニャゴ ニャゴ・・・。気持ち良い軽快なテンポで語られる『11ぴきのねこ』は、幼い私の一番のお気に入りでした。
いつもおなかをすかせている11ぴきのねこは、大きな魚を求めて湖へ冒険に出かけます。いかだを作り小さな島まで行き、そこで魚を狙いますが、見たこともないほど大きな魚に全く歯が立ちません。ねこは体を鍛え、見張りを続け、作戦を立て、魚を捕まえるため力を合わせます。「てきはゆだんしている!」ねこの大げさな「たたかい」に、わくわく感でいっぱいになったものでした。みんなに見せるまでつかまえた魚は絶対食べないぞ、そう誓い合ったはずの最後の場面では、驚きとともについつい頬が緩んでしまいます。
この話は勧善懲悪ものでも、教訓めいたものでもありません。登場するのは少々ずるくて、自分に正直なねこばかり。それでもどこか抜けていて、憎めない。その姿は人間のようです。同じように見えるねこですが、ページをめくるごとに一ぴき一ぴきがさまざまな表情を見せてくれます。ずるさ、愚かさ、それ故の可愛らしさ。ヒーローにはなり得ない11ぴきのねこに、不完全な人間への愛しさが込められているのだと思います。
(国際文化専攻2年)