〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.3 2008年3月号
バックナンバーはこちら
[ 123 | 4 ]

■ お気に入りの一冊

馬場のぼる『11ぴきのねこ』(こぐま社)

小幡 友里恵

 「あっ、さかなが おちている。」「さかなだ さかなだ。」ニャゴ ニャゴ ニャゴ ニャゴ・・・。気持ち良い軽快なテンポで語られる『11ぴきのねこ』は、幼い私の一番のお気に入りでした。
 いつもおなかをすかせている11ぴきのねこは、大きな魚を求めて湖へ冒険に出かけます。いかだを作り小さな島まで行き、そこで魚を狙いますが、見たこともないほど大きな魚に全く歯が立ちません。ねこは体を鍛え、見張りを続け、作戦を立て、魚を捕まえるため力を合わせます。「てきはゆだんしている!」ねこの大げさな「たたかい」に、わくわく感でいっぱいになったものでした。みんなに見せるまでつかまえた魚は絶対食べないぞ、そう誓い合ったはずの最後の場面では、驚きとともについつい頬が緩んでしまいます。
 この話は勧善懲悪ものでも、教訓めいたものでもありません。登場するのは少々ずるくて、自分に正直なねこばかり。それでもどこか抜けていて、憎めない。その姿は人間のようです。同じように見えるねこですが、ページをめくるごとに一ぴき一ぴきがさまざまな表情を見せてくれます。ずるさ、愚かさ、それ故の可愛らしさ。ヒーローにはなり得ない11ぴきのねこに、不完全な人間への愛しさが込められているのだと思います。

(国際文化専攻2年)


■ 新刊紹介

テア・ベックマン『ジーンズの少年十字軍(上・下)』(岩波少年文庫)

 まだ完全とは言えない、父が製作したマシーンによって、ドルフ・ヴェーハは1212年へとタイムスリップします。降り立った石に印をつけ、あらかじめ決めた約束の時間にその上に立てば、現代へ戻ることができるはずでした。ところが、それができなくなってしまったのです。砂ぼこりをあげる人ごみの中に取り籠められてしまったためです。人ごみは何千人という数の少年十字軍でした。ドルフはそのリーダーとなって、ジェノヴァを目指すことになります。目的とする場所がエルサレムでなくジェノヴァなのには意味があります。少年十字軍とは、聖なる目的に貫かれたもの、しかし、それは名ばかり、似非修道士の煽動によってふくれ上がったまやかしの集団だったのです。
 時間の差が生み出す知識の差は歴然としています。例えば伝染病についてドルフは知っています。しかし、それは周囲の子どもたちよりはという意味であり、専門家でもなく、道具もないドルフにできることは限られています。それでも病気の子どもを隔離すること、川に入って体を洗うのを奨めることなどは大きな効果を発揮します。その知識こそがドルフをリーダーにのし上げたものでした。しかし、ドルフはいばることをしません。自分の無力さがわかる、それだけ一層思い悩み、苦しむことにそれが表れています。
 ジェノヴァへは、危険なアルプス越えは避けられません。今ならトンネルを抜け、一直線の道を車で行くだけのことです。事実、幼い子を含む多くの子どもが足を踏み外すなどによって命を落としていきます。ようやくそれを越えたところで待ち受けていたもの、暴き出されたものは、ジェノヴァの港から子どもたちを奴隷として売り飛ばす計画だったのです。
 ドルフのタイムスリップは、高度に発達した科学によって可能となりました。それによってはるか昔へとスリップしたのです。だからといってスーパーマン的力を発揮できるとはならない、だからこそドルフの人間的成長があることを教えてくれているのです。そのドルフがどのようにして現代へと戻ることができたのか、それは読んでいただくことにしたいと思います。

(藤田 博)


[ 123 | 4 ]
図書館のホームページに戻る バックナンバー
Copyright(C) Miyagi University of Education Library 2008