〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.3 2008年3月号
バックナンバーはこちら
[ 1 | 2 | 34 ]

■ 取り替えっこする?

藤田  博 

 取り替えっこで真っ先に思い浮かべるのは、さるとかにが柿の種とおにぎりを交換する「さるかに合戦」でしょうか。ギリシャ神話では、ヘルメスがアポロと、かめの甲羅からつくった竪琴と牛を交換します。イギリスの昔話“Jack and the Beanstalk”で交換されるのは、牛と豆です。交換が次の交換へとつながっていく「交易型」では、価値の高いものと順に交換されていく「わらしべ長者」、価値の低いものと交換されていき、最後に何もなくなってしまう、イギリスの昔話“Mr. Vinegar”がその代表と言えます。
 自分が持っているものと相手が持っているものとを取り替える、交換の基本を考える上で象徴的なのは、海のものと山のものとの交換、その交換の場として市が立つことです。あるものとないものが行き来するそこには、円環を読み取ることができます。大きく一巡回りするものとしての円環です。「交う」、「替う」から「買う」へ、同じ語源を持つそれらのことばの流れが示しているのは、物々交換という直接的なものから、お金を介した間接的なものへと進んでいく道筋です。そこから枝分かれしたものとして贈り物があることも明らかです。
 いぬいとみこ『とりかえっこする?』(福音館書店)では、ねこが自分のずぼんをひきがえるのずぼんと、ひきがえるのずぼんをもぐらのずぼんと、もぐらのずぼんをももんがのずぼんと取り替えていきます。取り替えて元へと戻る流れが、池を巡る形になっているのです。
 さとうわきこ『とりかえっこ』(ポプラ社)では、ひよこが出会う相手ごとに声を取り替えていきます。ねずみと取り替え「ちゅうちゅう」、ぶたと取り替え「ぶうぶう」、取り替えた相手のねずみが「ぴよぴよ」、ぶたが「ちゅうちゅう」と鳴くのは言うまでもありません。戻ってきたときの鳴き声は、ねこの「にゃあにゅあ」をかめと取り替えた「む」です。
 雪の中でうさぎは二つのかぶを見つけます。一つを食べたうさぎは、一つをろばのところに届けます。家に戻ってそれを見たろばは、自分はいもを食べたからと、やぎへ届けます。やぎはしかへ、しかはうさぎへ届ける、そうしてかぶは元へと戻るのです。方 軼羣『しんせつなともだち』(福音館書店)の円の世界です。かぶは元に戻っても、相手を思う気持ちは相手の心に残されるのです。
 たぬきの家のとなりにきつねが引越してきます。きつねからたぬきへあいさつとして持参したいちご、そのおかえしがおかえしのおかえしとなり、おかえしのおかえしのおかえしとなります。村山桂子『おかえし』(福音館書店)に見られるのは、贈られた以上のものを相手に返す「ポトラッチ」です。子どもを贈り物に、自らを贈り物に、それによって最後はそれぞれの家が入れ替わってしまいます。ならば最初からしなければいいという言い方は可能です。しかし、ここにあるそのひっくり返しをむだと切り捨てることはできるでしょうか。
 さとうわきこ『いそがしいよる』(福音館書店)では、ばばばあちゃんが揺り椅子を、ベッドを、毛布と枕を家の外へ運び出します。星があまりにきれいだからです。運び出す50のものが並ぶページを読むにあたって、省略は禁物です。読み飛ばせば、内と外が丸ごと入れ替わるエネルギーは伝わってこないからです。すべてを終えたばばばあちゃんは、星のことなどすっかり忘れて眠ります。ここにあるのは壮大なむだ、ひっくり返しの精神なのです。
絵本での取り替えっこは、等価交換ではなく不等価交換が多いと言えます。どちらが得かを超えている、価値こそが問題とされているからです。世界の半分を取り替える、それによって世界が変わることが重要なのです。変身が好き、変身を得意とする子どもが、変身することによって世界が変わる、変わったように思うのと一つのものということ。取り替えっこはその変身を可能にしてくれるものなのです。
※「しんせつなともだち」方軼羣作/君島久子訳/村山知義画/福音館書店   
※「おかえし」村山桂子作/織茂恭子絵/福音館書店 
※「いそがしいよる」さとうわきこ作・絵/福音館書店

(英語教育講座・図書館運営委員会委員)


[ 1 | 2 | 34 ]
図書館のホームページに戻る バックナンバー
Copyright(C) Miyagi University of Education Library 2008