〜カムパネルラとは〜
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする
友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界
への道案内人としての意味を込めたものです。
Vol.2 2008年1月号
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■ 暖かい心の届くこの一冊

『あたたかいおくりもの』(福音館書店)

佐藤  葵

 暖かな場所、大好きな人、たくさんの笑顔、それがクリスマスに対して抱く私のイメージです。そこには贈り物があり、想いがあります。「選んだ贈り物、気に入ってくれるかな」という、贈り物をするときのわくわくした気持ち。贈り物を受け取って、自分のことを思って選んでくれたその姿を思い描く、うれしく、暖かな気持ち。『あたたかいおくりもの』には、そうした贈る気持ち、贈られる気持ちが詰まっています。
 寒い冬を外で過ごす森の木のために、森の動物は一生懸命、セーターを編みます。動物が作るセーターは、古い膝掛けをほどいたもの、短い毛糸を結んでつなぎ合わせたもの、綿を混ぜて水玉模様にしたものなど。想いが籠もったセーターは、どれもこれもふわふわとして暖かそう。セーターを着せてもらった森の木の周りは、雪の中であるにもかかわらず、そこだけ陽だまりのような暖かさがあるのです。
 この絵本を読むと贈り物がしたくなります。相手を思う、贈り物の暖かさが伝わってくるからです。大好きな人に喜んで欲しい、心の中でそう想う時間は楽しいもの。その先に、大好きな人のうれしそうな笑顔という素敵な「贈り物」が待っているからです。
 ※「あたたかいおくりもの」たるいし まこ作/福音館書店

(教育臨床専攻2年)


■ 新刊紹介

木村由利子・文/スズキコージ・絵『はらぺこねこ』(小学館)

 繰り返しは絵本の大事な要素の一つです。ねこがきつねを食べ、野うさぎを食べ、おおかみを食べ、くまを食べる、そのときの言い回しが同じになっています。違いがあるとすれば、食べる度に一つ一つ多くなっていく「積み重ね」、マザー・グースから、“This is the house that Jack built.”をその代表としてあげることのできるものです。ここではそこに驚きが加わります。小さなねこが自分よりはるかに大きなものを飲み込む驚き、驚きという絵本の持つもう一つ大事な要素です。食べる度に大きさを増していくねこは、結婚式の行列を食べ、お葬式の行列を食べる。そこまではいいとして、お月さまやお日さままでを食べてしまうのです。
 うちだりさこ・再話/スズキコージ・絵『ひつじかいとうさぎ』(福音館書店)は同じ積み重ねの上にできています。違っているのは、『ひつじかいとうさぎ』の場合、積み上げていったものが中間点でひっくり返り、逃げたうさぎはひつじかいのところへと戻ってくるのに対して、ここでは真ん中が折り返し点になっていないことです。お月さまを食べても止まらない、お日さまを食べてもまだ止まらない。お日さまを食べたところでねこのお腹は溶け、食べたもの全部が飛び出してくると予想していたにもかかわらずです。ビョルクリット『はらぺこガズラー』(ほるぷ出版)のはらぺこねこなら、お日さまを食べたところで「バッカーン!」と破裂して終わるのです。
 巨大にふくれ上がったそのねこがやぎを食べようとします。どうして最後がやぎなのかを考えるには、これが北欧の昔話に基づくものという事実、そして同じく北欧の昔話に基づくマーシャ・ブラウン『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)での、トロルをやっつけたやぎに目を向けることが必要になります。お日さまをのみ込んだねこをやっつけたやぎは、お日さまより強い、とすれば、北欧の神話や昔話にあって、やぎは特別の位置を占めていると思われるからです。

(藤田 博)


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